No.29 はるなつあきふゆ一週間

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ――嫌な視線を全身で感じる。

 羨望。

 嫉妬。

 敬愛。

 憤怒。

 好意。

 敵意。

 愛情。

 ……そして劣情。




、気にしない)




 なぜなら、そんなものは生まれた時からずっと向けられていたものだからだ。

 慣れているし、いくらでも受け流す術も会得している。

 だから何も気にならない。

 仮に『実力行使』をしてくる輩がいても、あらゆる分野の『天才』ならいくらでも切り抜けることができる。




 

 それが――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ナツたちがハルと生活を共にするようになって、早くも一週間が過ぎた。


「ただいま」

「たっだいまー♪」

「……んー……ぉかえりぃ……」

「おかえりなさい、ハル君、ナツちゃん」


 である。


(……荒事がなければそれに越したことはないが、進展もなしか……)


 早めに解決したいという気持ちはあるが、能動的に起こせるアクションは限られている。というよりも現状、皆無に近い。

 財政破綻が先か、問題解決が先か。割と危機的な状況ではある。

 ……はずだったが。


「アキ姉ー、今日のご飯なにー?」

「……おまえ、そればっかだな……」

「うふふ、楽しみにしてくれているのは嬉しいわ~」

「……ぉ兄ちゃん、はやく……」

「わかったわかった。着替えるから少し待ってくれ」


 途端に賑やかになる四季嶋家。

 着替えたハルの膝に乗り、再びテレビに夢中になるフユ。

 アキはそのまま夕飯の準備を続け、制服から着替えたナツはというと……。


「うぅ~……生徒に紛れるんじゃなかったぁ……」

「諦めろ。教えてやるから」


 テレビを見ているフユの横で、半泣きになって学校の勉強をしている。

 自分の得意分野以外はからっきしというタイプだったようで、H世界の高校生の授業についていけていないのだ。


(何が『超天才』だよ……)


 数学や物理は得意そうなのに、そっちもあまりよく理解できていないようだった。

 あまりにも技術格差が進み過ぎていて、逆にH世界の学問はレトロ過ぎてわからないのだろう……と納得することにしておくこととする。

 フユの座椅子になりつつ、ナツへと勉強を教えるハル。

 ただでさえ目立つ存在なのに『アホの子』として悪目立ちさせるわけにはいかない。




 財政破綻については、ハルの予想よりも先の話になりそうだった。

 なぜならば、一番お金がかかるであろう食費についてがかなり軽減されたからだ。

 理由はアキである。


(……適応力というか学習能力がすごいんだよな、アキさん)


 H世界にやってきた当日に『家のことをやろう』と決意してからというもの、アキの成長は凄まじい速度だった。

 流石に翌日は無理だったものの、翌々日には自分でスーパーに買い物に行き夕食を作成。更に次の日にはハルとナツの昼の弁当も作成。

 結果、コンビニ弁当が主食だった頃よりもトータルでは一人当たりの食費は減るということになっていたのだ。

 もちろん、最終的には四人分となるので以前よりは多いのだが、アキが食事を作らなければ倍近くにはなっていたかもしれない。


(調理道具やら調味料、それにレシピ本は――まぁ初期投資ってことで仕方ないか)


 初期投資分を回収できるほど期間が延びてしまうと、それはそれで困るのだが――解決の目途が立ってない以上、長期戦も視野に入れるべきであろう、と割り切ることとした。


(……少し、かもしれないな……後で皆に相談してみよう)


 今の生活は『悪くない』と思い始めているし、ナツたちと共に過ごすのは『楽しい』とも思える。

 けれども、いずれやってくるであろう財政破綻のことを考えると呑気にもしていられない。

 今後のことについてハルには一つ考えがあった。

 能動的なアクションの選択肢は皆無に近い、ではあるが皆無ではない。

 それを実行するかどうか――提案してみる価値はある、と思うのであった。

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