No.40 アオハルデストラクション(後編)

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「ナツ、戻って来てくれたのか!」

「うん。デブリが出て来たのがわかったからね!」


 誰とも連絡が取れない状態、しかも今までにない動きをデブリがしている今、ナツと合流できたことはハルにとって安心材料の一つであることは間違いない。

 戦闘面ではともかく、情報面においてはナツは並行世界について誰よりも詳しいのだから。


「状況はわかってるか?」

「うん、まぁ大体は……」

「そうか――簡単に説明すると……」


 とはいえ、ナツが全ての事情を知っているわけでもない。

 ハルは簡潔にナツへと状況を説明する。




 超巨大デブリが突如ショッピングモール内に出現したこと、

 アキとフユの身にも何かが起こり、『超科学脳波通信機』でも連絡が取れないこと。

 ひとまず他の人が避難していないであろうこの休憩スペースへと逃れてきたこと。




 全てを包み隠さず――隠す意味もない――ナツへと伝える。


「そっか……アキ姉たちと連絡がつかない状態なのね」

「? あ、ああ」


 真っ先に気に掛けるのが『そこ』なのか、と微かな疑問を抱くものの『護衛』という意味では確かに気にするべき点か、とハルは思いなおす。

 事実、超巨大デブリが出現している今、アキと合流できていないことは大きな問題だ。

 それでも数々の超科学アイテムを扱えるナツさえいれば、倒しきることはできずとも合流まで身を守ることはできるはずである。


「……ハルにしては、ちょっと迂闊なところに逃げ込んじゃったわねー」

「まぁな……」


 仕方のないこととは言え、休憩スペースへと逃げ込んだのは最善手ではないことをハルは自覚していた。

 屋上のように『外』と繋がってはいるが、だからといってここから脱出することはできない。

 頑張って壁を乗り越えたとしても、建物3階分くらいはある――しかも普通の建物よりもショッピングモールは1階ずつの天井が高いため、かなりの高さだ。飛び降りたとしても無事では済まないことは明らかだ。

 ――ただし、ハルには『勝算』があってのことではあるのだが……。


「とにかく、デブリがここに来るまでに次の手を考えよう」


 追い詰められる場所ではあるが、他に被害が出にくい場所であることも確かだ。最善ではなくとも、ハル単独で被害を拡大させないようにするには『ここ』に来る以外の方法はなかった。

 そう割り切って頭を『次』へと切り替える。


(最善は、デブリがここに来る前にアキさんたちと合流することだが……厳しいか)


 ハルの現在地を伝える術がない。

 アキと連絡が取れればいいのだが、相変わらず通信が繋がらないままだ。

 ……ハルを追うデブリを追いかけていけば合流できるかもしれないが、アキならばそのまま戦って倒そうとする可能性が高い――それでデブリが倒せれば、それはそれで問題はないのだが。


(……アキさんの身に何か別のことが起きていると考えた方が良いだろう。あの巨大デブリ以外のトラブルに巻き込まれていると見て間違いない。

 ――まさか、他のデブリが出ている?)


 考えてもハルにわかることではない。

 状況から推測できることは、ハルの考える最善の状況はまず望めないということだけだ。


(次はここから逃げることだが……そうなると、街中まであのデブリが追いかけてきかねない)


 人混みでも関係なく現れた巨大デブリなのだ、ショッピングモールから脱出したとしても平気で追いかけて来るだろう。

 もしそうなれば今以上の大パニックとなってしまう。

 既に巻き込まれた人は多数出てしまっているが、これ以上の拡大だけは避けなければならない――もちろんハル自身の命も守らないといけないのはわかっているが……。


(後は、ナツと一緒にショッピングモールに戻ってアキさんたちを探す、だが……)


 ナツの超科学アイテムがあればある程度はデブリとも戦えるが、巨大デブリに通用するかは未知数だ。

 それに、お互いに探し回って動いていたら余計に合流に時間がかかってしまう可能性もある。

 できればあまり採りたくない案だと言わざるを得ない。


(ここでデブリを迎え撃つ、そうするしかないか)


 時間を稼ぎ、アキたちとの合流を待つ――上策とは言えないが、今採れる手段の中では最もマシな策であろう。


「ナツ、ここでこのままデブリを迎え撃つ。できるか?」

「うん、大丈夫。


(……?)


 再びの違和感。

 ナツもまたハル同様の結論に達したのだろうと思ったものの、すぐに別の考えが浮かぶ。


(いやまてよ? ナツと一緒に一度N世界に退避して、そこから別の場所に戻るというのもありか……?

 俺がH世界からいなくなった後、デブリがどう動くかだけが心配だが……H世界からなら、アキさんたちの居場所も突き止められるのでは?)


 こんな事態を想定していなかったので考えつかなかったが、なかなかいいアイデアなのではないかとハルには思える。

 ハルの居場所を特定してN世界からやってこれるのだから、アキたちも同じようにわかるはずだ。

 懸念点はN世界に隠れ続けているわけにもいかず、またハルがH世界から一時的にいなくなった場合にデブリがどう動くかではあるが……。

 仮にデブリが消えるのであれば問題ないし、残ることになっても早めに戻ってアキと合流後に人のいない方に移動すればやはり被害は最小限に出来るはずだ。


「ナツ、一度N世界に戻ってみないか?」

「え!?」

「N世界を経由してアキさんたちと合流して、そこからデブリに対処――これがベストなんじゃないかと思うんだが」


 言いながら本当の意味では『ベスト』ではないのはわかっているが、ここでデブリを迎え撃つよりはマシなアイデアだと思える。

 というよりも、ナツが合流している以上、最も勝算の高い手段であると言えるだろう。

 しかし、ナツの反応は芳しくない。

 それどころか少し挙動不審、とさえ言える。


「……? どうしたんだ、ナツ。さっきから変だぞ?」


 違和感はもはや抑えきれないほどに膨れ上がっていた。

 ナツの態度は明らかにおかしい。

 、そうとしか思えない態度なのだ。

 問いただすほどの余裕はないが、放っておいて良い問題でもなさそうだ。

 更に問い詰めようとするハルであったが、その時事態が大きく動いた。


「! ハル、アレ!」

「!? デブリ……!?」


 ナツがショッピングモールの方を指さす。

 振り返ったハルが目にしたものは、ついに追いついてきた巨大デブリの姿だった。

 ただし、ハルが予想していたものと大きくことなる。


……!?)


 デブリが現れたのは、ショッピングモールの外側……建物の屋上側からであった。

 確かに巨大デブリのサイズでショッピングモールの内部を通ってくるのは難しいとは思ったが、『泥』のような身体だ。いくらでも変化して通り抜けることは出来るだろう。

 だというのに、巨大デブリは外側から遠回りしてやってきたのだ。

 そのことにも違和感を覚えるが、なぜデブリがそのような行動をとったのか――ハルはすぐに理解する。


「は……!? 良樹に……風見さん!?」


 屋上側からハルたちを見下ろす巨大デブリ。

 その『手』に当たる部分に良樹と真理の二人の姿を認める。

 どちらも気を失っているのか、ぐったりとしていてい抵抗する様子はない。


(まさか……!? デブリにそんな知能があるのか!?)


 訳が分からずハルは混乱した。

 ナツがN世界に戻っている隙にデブリが行動を起こした――それ自体もやや不自然な点はあった。

 それ以上に、良樹たちを人質にとることが不可解だ。

 もしも人質作戦が有効だとわかっているのであれば、休日にたまたま近くで出会った二人を狙うのではなく、もっと確実な……学校に通っている時に出て来た方が効率が良いはずである。

 人質作戦をするほどの知能があるのだとすれば、選択しない理由がない。

 余りに不合理なデブリの行動に、ハルは混乱しているのだ。


(拙いな……二人を助けるにしても、俺とナツだけじゃ――)


 どうしてもアキという戦力が必要になる。

 そして二人が人質にとられている以上、N世界へと退避する案も採れない。

 八方塞がり、絶体絶命。

 ……そんな言葉がハルの脳裏に過った時だった。


「――それじゃ、

「は? ナツ、お前――うぐっ!?」


 やけに冷静なナツの言葉に反応するよりも早く。

 ハルへと飛び掛かって来たナツ。

 彼女が何をしようとしているのか理解するよりもやはり早く。

 ハルは自分の脇腹に向けて突き立てられたナイフを目にした。




 ――そう、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る