No.41 沈黙のハル

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ハルはここに至り、




(……ああ、くそっ……! か……!!)




 デブリが現れた原因。

 なぜデブリがハルを狙うのか。

 そして、デブリが最近になって現れるようになった理由。

 『ナツ』がハルを刺した本来ならばありえない事実。




 




 ハルの卓越した頭脳がこの時フル回転し、今まで気にかかっていた事柄や手がかりを次々と結び付け、この事件の『真相』を導き出す。




(こいつは――…………!!)







 『ナツ』の姿をしているが、

 ハルの身を守るためにやってきたナツが、いかなる理由があろうともハルを傷つけるわけがない。

 例えハルが知らない事情があったとしてもそれはだ。

 

 たった一週間余りの共同生活だったが、ハルは心の底からそれだけは信じ切っていた。

 だから、こいつはナツではないのは明らかだ。




 では一体なんだというのか?

 ナツと同じ姿をし、ハルへとナイフを突き立てるような人物は――







 ――「……もし俺が『特異点』じゃなくて女だったとしたら、おまえみたいな感じなのか……」

 ――「多分ねー。逆に私が男だったら、ハルみたいな感じなんだろうね」







 以前、ナツとそんな何気ない会話をしたことをハルは覚えている。

 H世界とN世界には埋めがたいほどの科学技術の格差が開いているが、基本的には『近い』世界だ。

 A世界やF世界は逆に遠すぎる。並行世界というよりも『異世界』と言った方がよほど近いくらいだろう。


 世界が近ければ、そこに住む人間の容姿は似てくる。


 だから、ハルとナツは『もしもハルが女だったら』『もしもナツが男だったら』の話をした時に、そのようなことを互いに言ったのである。




――これだけがわからなかったが、今の状況で理解できた……っ!!)


 巨大デブリがハルではなく良樹たちを優先した様子を見て、ある仮説が浮かび上がり最後のピースとなった。


(俺と良樹がこの世界で親友……ナツたちの世界でも良樹に相当する人間は比較的近い位置にいた……!)


 N世界の良樹はナツと顔見知りであり、そして短い時間の邂逅であったが良樹は明らかにナツに好意を抱いていた。

 A世界のヨシキもやはりアキと顔見知りであり、互いに殺し合う関係だといえ『近い』関係と言えばそうだろう。

 もしかしたらF世界で襲い掛かって来た鬼も、あの世界での良樹だったのかもしれない――確認する術はないが。

 つまりハルが考えていることとは、ということだ。


(だから、もし――――!!)


 ナツと同じになるかどうかはわからない。

 良樹と同じ男の時に『親友』であることを考えれば、もしかしたら――『男嫌い』の例外となっているかもしれない。

 そんな『仮定』を考えるとすると……。

 なぜ最近になってハルを狙うようになったのか、その答えがおのずと見えてくる。







は……は――!!)







「――さようなら、ハル。これで……これでやっと――!」


 『ナツ』が崩れ落ちゆくハルを見て笑みを浮かべる。

 心の底から嬉しそうに、安心したような。

 『目的』を達成した者の浮かべる笑みだった。







(こいつはIF世界ロマニアの俺――……!!)

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