No.09 ハロー! 学園生活(中編)

「それにしても学校にまでついてこなくても大丈夫なんじゃないか?」


 特に根拠はないが、人目のある場所なら襲われないだろう。そんなことをハルは思った。


「うーん……しばらくは大丈夫だとは私も思うんだけど、絶対とは言い切れないからねー。

 昼間でも他に誰もいない場所とかに迂闊に足を踏み込んだら、いきなりデブリの群れが現れる……なんてこともありえるし。

 いざという時に駆け付けられるようにはしておきたいの」


 真剣な表情でナツは少し考え、答える。

 女性と関わらないように、と逃げられる時は逃げる。そうした場合、他の人間がいない場所になることが多い。


「……もしかして、実はトイレとかもヤバいのか?」

「あー、ヤバい、かも? いや、お手洗いだったら他にも人いるだろうし……」


 現実で確実な奇襲と暗殺を狙うのであれば、無防備になり咄嗟の対応が難しいトイレ・風呂を狙うのはありだろう。

 そこをピンポイントで狙うのが難しいので、寝込みを襲うのが一般的なのだろうが。


「おまえじゃなくて、他のヤツを連れて来た方が――いや、ダメか。俺以外は皆性別同じなんだっけか」

「そう。だから私の世界から護衛を連れてきちゃうと、同じ顔にバッタリ! ってことになるかもしれないしねー……」


 N世界とH世界はかなり近い世界らしい。

 なので、両方の世界に存在する人間の姿かたちはほぼ同じとなる。

 どこで誰に会うかわかったものではないのだ、ハルを守るという最重要目的はあるものの無用な混乱は避けたい……という思いがあったため、ナツが自らやってきたということだ。


「……もし俺が『特異点』じゃなくて女だったとしたら、おまえみたいな感じなのか……」

「多分ねー。逆に私が男だったら、ハルみたいな感じなんだろうね」


 改めてじっくりとナツの姿を見るハル。

 言われてみると、どことなく姉と妹に近い感じはある。もし3人並べば姉妹に見えなくもないかもしれない。

 話がややこしくなるため絶対に会わせたくない人間の筆頭格ではあるが。

 流れでナツを並行世界の自分だと認めているような感じになっているが、もちろんハルはまだ全てを信じたわけではない。


「そろそろ学校だが……どうするつもりなんだ?」


 ハルのアパートから学校までは徒歩で30分もかかる。

 公共の交通機関を使うという選択肢はハルにはない。

 ……以前、それで大変な目に遭ったので、どんな天気であっても徒歩通学を貫いているのだ。

 話しながら歩いていたが、ナツは少し辛そうだった。


「ふぅ……結構遠かったわねー……。私の世界なら、全部『動く歩道』だから楽なんだけどなー」

「ワープとかはないのか」

「研究はしてるみたいなんだけどねー。なかなか難しいみたいよ」


 並行世界を行き来できるのと、同じ世界内でワープする。どちらが難易度が高いのか……流石にハルでもわからなかったが、N世界においては前者の方が先に実現できたようだ。


「良し、それじゃやるわよー」

「……」


 校門前まで来て息を整えたナツがそう宣言する。

 ちなみに、まだ他の生徒の姿はない。

 30分も歩くからということと、通学路で女性に極力遭わないようにかなり早めに登校するのがハルのルーティンなのだ。

 それはともかく、校門の裏、人目がないことを確認した後にナツは服のポケットから小さな箱を取り出す。


「『超科学収納ボックス』ー!」

「……」


 見た目は小さな箱であるが……。

 ふたを開け、中から現れたのは――絶対に箱の中に納まりきらないであろう100cmほどの大きさのパラボラアンテナのような謎の機械だった。


「……なんでそんなものが入るんだ……?」

「ふふん、N世界の超科学は『空間』を超えてるのよ!」


 説明になってない説明ではあるが、突っ込みはしない。

 この謎現象からしてN世界という超科学世界がある、とまではハルは信じない。

 まだ何かしらの『トリック』の可能性は捨てきれない――それを言ったらデブリですらトリックであると言えなくもないが……。

 そんなハルの考えを知ってか知らずか、取り出したアンテナを設置している。


「よしよし、設置完了! 設定もオッケー!

 じゃ、いっくわよー」

「お、おう」


 一体何をするつもりなのか。

 微妙に嫌な予感がしつつもナツのやろうとすることを見守るハル。


「スイッチオン! 『超科学催眠電波』発信!!」

「……は?」


 非常に物騒な単語が聞こえたが――特に周囲におかしなことが起きたりはしていなかった。

 いや、『催眠』と言っているのだからぱっと見た感じで妙な変化は起きないだろうが……。

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