No.10 ハロー! 学園生活(後編)

「ちょっ!? 『催眠』っておまえ何やってんの!?」

「え? 集団催眠だけど?」

「さらっと怖ぇこと言ってんな!?」


 『超科学催眠電波』が発信されているらしいが、ハル自身には特に影響は――ないように思えた。


「このハイスクールに私も通いながらハルを守るつもりだけど、手続きとか色々と面倒じゃない?

 だから、催眠でちょちょっと……ね?」

「ね? じゃねーよ。それ大丈夫なのか……?」

「へーきへーき。出力はかなり弱めにしているし、今回は『ナツの存在に疑問を抱かない』ってだけにしておいたから、全部事が済めば元通りよ。

 範囲もこのハイスクール周辺に絞っておいたから、影響は最小限!」

「ほ、ほんとかよ……?」


 現時点で目に見えた変化は見えないので、本当に悪影響があるのかないのかすらも判断はつかない。

 ……いや、仮にこれがナツの悪ふざけのようなものならば、学校からナツが摘まみだされるだけなので別にいいのか……? と半ば思考を放棄しかけたハルだったが。


「お? ハル、相変わらず早いな」

良樹よしき!? お、おはよう!」


 校門裏でごちゃごちゃとやっている間に、ハルの親友・良樹が登校してきてしまった。


「おはようございます、四季嶋しきしま君」

「……あ、ああ。おはよう、風見かざみさん……」


 もう一人、良樹の横にいた女生徒に声を掛けられ挙動不審になるハル。

 ハルの『女嫌い』の事情は知っているのだろう、特に傷ついた様子もなく風見と呼ばれた少女は微笑む。


「相変わらずだね。私はもう慣れたけど……」

「人の彼女に対してもそれってのは相変わらず引っかかるが……いや、おまえも難儀してんのは知ってるしな」

「気を悪くさせて済まない、風見さん」

「わ、私は大丈夫だよ!」

「……で、おまえ、そんなところで何やって――!?」


 良樹がハルの背後へと目をやり、硬直した。


「……」


 先ほどまでの元気っぷりはどこへやら。

 途端に無口になり、俯いて目線を合わせようとしないナツの姿を捉えた良樹、そして風見。


(……どうなる……?)


 いざとなれば助け舟くらいは出してやるか、と思いつつもちょうどいい機会だ。

 良樹と風見はナツとは初対面……のはずだ。事前に打ち合わせをしてドッキリを仕掛けてくるとも思えない。

 ここでの反応次第でナツの『超科学催眠電波』の効果がわかるだろう――と少し外道なことを考えるハルであった。


「おー、! 相変わらず可愛いねぇ~」

「ちょっと、良樹! 彼女の前で何言ってんのよ、あんた!?」

「痛ぇっ!? こ、こんなんただの挨拶だろ~!? 怒るなよ、真理まり

「本当ぅ……?」


(……マジでこいつナツに違和感を覚えてない……?)


「おはよう、ナツ」

「あ、あ、う、うん。おはよう、……」


 良樹に対するぎこちない笑顔とは異なり、緊張はしているようだが風見――真理へと挨拶をするナツ。

 二人に対する態度に引っ掛かるものがあったが――


「良樹、風見さん。急がなくていいのか?」


 ここらで助け舟を出すべきか、とハルが動く。


「おっと、そうだった。行こうぜ、真理。ハル、ナツちゃん、またな」

「ああ。後でな」


 良樹と真理は生徒会に所属している。

 色々な事情によって早めに登校しているハルと出くわしたということはきっと何か用事があるのだろう、と思って適当に言っただけだったのだが正解だったようだ、とハルは胸をなでおろす。

 同様に、安心したようにナツも息を吐き――再び輝く笑顔をハルへと向けてくる。


「ね? こんな感じで問題ないでしょ?」

「……いや、これはこれで問題なんじゃ……?」


 明らかに二人は『ナツ』という名前まで知っていたし、顔見知りのような反応だった。

 『催眠』だけではなく『記憶改変』も加わっているんじゃ……と少し不安になるハルだったが、それ以上に気にかかることもできてしまった。


「もしかして、あの二人――?」

「……う、うん……」


 なるほど、とハルは納得する。

 性別が反転しているのだから、おそらくナツと真理が友人関係なのだろう。そして、良樹は男なので苦手……ちょうどH世界でのハルと良樹・真理の関係の逆なのだと納得がいった。


「さっきは言いそびれたけど、名前も知らない人じゃ不便だからね。『ナツ』っていう子がいるって情報も追加してあるわ。

 これも全部終われば元通りだから大丈夫!」

「……本当かよ……いや、もう言っても仕方ないか……」


 やってしまったものは仕方がない。

 全てが解決した後に後遺症等が残らないことを願うしかない。


「……ね、ねぇハル?」

「あん?」

「その……マリちゃんと諸星君って……付き合ってるの?」

「? ああ。高2のバレンタイン頃だったかな、その辺りから付き合っているぞ」


 そういえば――とハルは思い出す。

 同級生上級生下級生教師、様々な女性から言い寄られたが、真理はそうではなかったな、と。


「…………そっかぁ。


(……?)


 本当に、心の底から安心したという風にナツが小声でそう呟いていたのをハルは聞き逃さなかったが――特に何も言うことはなかった。

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