PART 2 : ナツの暴風

No.08 ハロー! 学園生活(前編)

 ハルとナツが出会った翌日――


「……眠ぃ……」

「え? どうしたの、ハル? 夜にカフェイン摂りすぎたんじゃないの?

 あははっ、でもわかるわー。私も色々とアイデアが湧いてきて、カフェイン摂りながら徹夜とかよくやるしねー」


 ぐっすり寝て元気溌剌なナツを横目で見つつ、ハルはため息を吐く。

 誰のせいだと思っているんだ、と。




 ……『私もここに住むから』と宣言したナツ。

 となると、ひとつ屋根の下で年頃の男女が……!?

 しかもいきなりの同棲、いや同居で布団もあるわけないし……!?

 ――などという甘酸っぱい展開は、この二人に関しては起こりえない。


『え? 別に一緒のベッドで良くない?』

『良くねぇよ。シングルベッドで二人も寝れるか』

『えー……じゃあ私どこで寝ればいいの?』


 出てけよ、と言いたいのをぐっと堪え――『並行世界の自分自身』に対しても紳士であるハルは強く出れなかったのだ。


『……おまえがベッドで寝ろ。俺は床で寝る』

『そう? えへへ、じゃあ遠慮なく~』


 遠慮しろよ、と言いたいのも堪えた。紳士ゆえに。




 というわけで、ハルが寝不足なのは『女の子といきなり同居!? やだ……寝息にドキドキしちゃって眠れない……!』なんてことはなく、薄いカーペットを敷いただけのフローリングの上で良く眠れなかった、というだけなのである。

 如何に天才であり優れた身体能力を持っているハルと言えども、悪環境でぐっすり眠れるような才能は持ち合わせていなかった。

 なんだかんだで彼も、恵まれた現代日本に住む一少年であるということだ。


「……で、おまえはどうするんだ? 俺は学校に行くぞ」


 今日はまだ平日。学校に行かねばならない。

 ……彼の学力および成績からすれば数日サボったところで何も揺らぐことはないが、生真面目な性格でもある。体調不良でもないのに学校を休むのを良しとしなかった。


「ん? ああ、そっか。ハイスクールね! おっけー、私も行くわ」


 『ハルの命を守りに来た』という宣言からして予想はしていたが、ナツは着いてくるつもりのようだ。


「……学校には入れないぞ?」


 さてどうするつもりだ、と試す気持ちがないわけではない。

 ナツの言葉の真偽は普段通りに行動することでわかるだろう――とハルは内心で彼女を『試す』つもりでいた。


「うん? あー、へーきへーき。

 ふふん! このIQ65536の超天才美少女科学者・ナツちゃんにとって、この程度問題でもなんでもないわ!」

「…………そうか」


 IQ知能指数は絶対値ではなく相対値なので、65536なんて絶対あるわけないんだけどなぁ……と思いつつもハルはそれ以上突っ込まなかった。

 天才といえど、寝不足では十分なパフォーマンスを発揮できないのだ。ちなみに彼はいわゆるショートスリーパーではない。

 朝からとてつもない疲労感を自覚しながら、ハル、そしておまけにナツも学校へと向かうのであった。

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