No.16 血と肉と暴力 ~アキの世界(前編)

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 超科学パラレルワールドゲートを潜った一行がたどり着いたのは――


「……原っぱ?」


 周囲に視界を遮る物が何もない『原っぱ』だった。


「あら? わたしの集落に近い場所かしらね?」

「うん、直接行っちゃうと集落の人を驚かせちゃうし……と思って」

「……え、俺危ない目に遭わされるところだった?」

「そ、そうならないように調整したって言ってるでしょ!」


 とはいえ、この原っぱに来たところで何がわかるわけでもない。

 5~10分で『アキの集落』にたどり着いて見学していく、ということだろうか。

 ……とハルが思った時だった。


「? どうした、フユ?」


 くいくいっとフユがハルの服を引っ張る。


「…………

「は? 何が……?」


 フユに問いただすよりも早く、彼女の言葉を聞いたナツとアキが動く。


「アキ姉!」

「ええ、ナツちゃんは皆をお願いねぇ~」

「わ、わかった! 超科学物理バリア!!」


 一体いかなる道具なのか、ハルたち三人を包み込む青い光の膜が現れた直後。




 ――突如、少し離れた地面が『爆発』した。




「な、なんだぁっ!?」

「…………こわいの、きた」

「危なっ、ギリギリだったわー」


 爆発した地面の破片、土や石つぶてが弾丸のように周囲に撒き散らされる。

 が、それらは全て青い光の膜――超科学物理バリアによって防がれ、ハルたちには一つも届くことはなかった。


「……ふふ、うふふふふふふ……相変わらずストーカーみたいな勘の良さですねぇ。?」

「……は? 良樹……?」


 思いがけない名をアキが呟いたのを聞き逃さなかった。

 彼女の声に応えるように、爆発の中心地から『何か』が現れる。


「…………な、なんだあいつ……人間、なのか……?」

「うん……信じられないでしょうけど、あれは人間――このA世界における『男』よ」




 現れたのは、確かに人型をしていた。

 しかし、それがただの人間だとはハルにはどうしても思えなかった。

 身長は少し離れているためはっきりとはわからないが、おそらくは2メートルは軽く超えているだろう。

 ボディビルダーも裸足で逃げ出すくらい全身の筋肉が膨張しており、もはや人型はしているが『人間』ではなく『毛のない類人猿』と言った方が近いくらいである。

 どこから現れた、とその場ではハルにはすぐわからなかったが……彼は


「てめぇ……アキナァ……今度こそ、ブチ殺してやるよぉ……」

「くふっ、できもしないこと、口にしちゃダメですよぉ♪」

「ブチ殺す、殺ぉぉぉぉぉぉすっ!!!」


 大気を震わせ、聞いているだけのハルたちまでもが思わず竦みあがるような雄たけびを上げながら、筋肉ダルマが地を蹴りアキへと飛び掛かる。

 見た目の鈍重さとは裏腹に、運動能力も天才的なハルであっても目で追うことすらできない速度だ。

 比喩ではなく、本当に丸太のような太さの腕に加えて、同じく比喩ではなく目にもとまらぬ速さが加われば――その衝撃はダンプカーに全速力でぶつかられるようなものだろう。


「!!」


 ハルたちは反応することもできず、アキが為す術もなく殴り殺される場面を――目にすることはなかった。


「ぐぐ、アキナァ……!!」

「うんうん。前よりは重い拳になってますよぉ、がんばりましたねぇ~えらいえらい♪」

「て、てめぇ……!」


 筋肉ダルマのパンチを、その場から一歩も動くことなく。

 アキは片手であっさりと受け止めていた。

 ……見掛け倒しなわけではない。

 その証拠に、受け止めたアキの足元の地面が衝撃に耐えかねて大きくヒビ割れている。


「ナツちゃん? 5分だけだったよね~? 悪いけど、ちょっと待っててくれるかな~?」

「う、うん……それはいいけど……」

「ふふっ、良かったですねぇ~ヨシキ君? 今日は5分しか相手してあげられないので、ぇ~」

「なっ、てめ――」


 筋肉ダルマ――ヨシキの怒りの声が途切れた。

 受け止めた手とは逆の手で放ったアキのパンチを浴び、ヨシキの身体がまるでギャグマンガのように吹っ飛んでいったからだ。


「せーのっ!!」


 それを追いかけるように、今度はアキが地を蹴り、瞬間移動のような速度で吹っ飛んだヨシキへと追撃を仕掛ける。

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