No.18 死と灰と滅び ~フユの世界(前編)

 宣言通りの5分間で、アキは襲い掛かって来た『ヨシキ』をノックアウトする。

 もう少し時間があったらとどめを刺せる、と言わんばかりであったが、


「あんまりのんびりしてると援軍が来ちゃうから、この辺で終わらせておきましょう~…………はぁ、残念ですけど」


 とアキが言うため、アキ世界から戻ることとした。

 本当の予定なら、少し離れたところからアキの住んでいた集落を見学して並行世界感を味わってもらおうという予定だったのだが、『ヨシキ』の襲撃により全く異なる方向での並行世界感となってしまった。

 結果的には、現実には到底ありえないものを見せることとなったのでより良い結果だったのかもしれない。




 ともあれ、A世界の見学は終了。

 大暴れしていたアキであったが全く疲れていないようだったので、続けてフユ世界へと向かうこととした。




 ……のだが……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

「いやだこわいこわいこわいこわいこわい……」

「チッ、頑丈なヤツでしたねぇ……!」


 超科学パラレルワールドゲートを潜ってわずか1分。

 4人はF世界からナツ世界へと帰還、否、いた。

 叫びながらもフユを抱え必死に走って来たであろうハル。

 涙目になりながらその後を必死についてきたであろうナツ。

 ぶるぶると震えながらブツブツと虚ろな目で呟き続けるフユ。

 そして、最後に忌々し気に舌打ちをしながらアキ。

 四者四様ではあったが、いずれにしても共通しているのは――F世界からは一刻も早く立ち去るべし、という思いだった。


「な、なんなんだ、は……!?」


 自分の見たものが信じられず、しかし思い出して恐怖で身体を震わせるハル。

 A世界の『ヨシキ』もなかなか現実離れした、モンスターじみた存在だったが……F世界はそんなものではなかった。


「ぜーはーっ……」

「ぐすん、ぐすん……」

「ご、ごめんねフユちゃん! 怖かったよね。もう大丈夫だからね!」

「……ぐすっ……ぅん……」


 全力疾走して息切れしているナツだったが、自分のことよりもぐすぐすと泣き続けているフユを宥めている。


(……にフユはいたってのか……!? よくな……)


「ふぅ……一対一なら負けはしないだろうけど……わたしもまだまだ訓練が足りないですねぇ……チッ」


(こっちも怖ぇ!?)


 他3人と全く違う方向でぶつぶつと呟いているアキについては迂闊に触れないこととした。




 その後、しばらくの間息を整え、またフユを落ち着かせた後――


「アキ姉、フユちゃんと一緒にシャワー浴びてきちゃって。二人の着替えは届けさせるから」

「いいわよ~。ナツちゃんたちはどうするの?」

「私とハルは展望ラウンジに先に行ってお茶でも飲んでるわ。

 場所はわかるよね?」

「大丈夫よ~。それじゃあ、フユちゃん。お姉ちゃん一緒に行きましょうねぇ~」

「……ぅん……」


 一旦二手に分かれて行動することとなったのだった。




 ハルはナツに連れられ、建物内の最上階――やたらと長いエレベータで、何階なのか確認するのが怖かった――にある展望ラウンジへとやって来た。


「おお……これは、何というか……」


 自分たちが今いる建物が周囲よりもかなり高く、展望ラウンジからはN世界の街の様子がよく見えた。

 その景色に感動するハルではあったが、本題はそこではないことにも気付いている。


「それじゃ、二人が戻ってくるまで……ちょっとお話しましょうか」

「ああ。フユの世界のことだな?」

「うん……」


 景色の良い席で向かい合わせに座る。

 そう、ここでの会話の本題はN世界ではなくF世界――もっと言えば、『フユについて』なのである。


「あの世界は……一体何なんだ? アキさんの世界とも全く違う――おまえが前に言った通り、正に『異世界』としか思えない」

「うん……F世界はかなり特殊な並行世界。ぶっちゃけちゃうと、なのよ」

「……!」

「原因は――幾つかあるんだけど、一番のものは……ハル、あんたも見たでしょ?」

「ああ……あの『鬼』というか『巨人』か」


 つい先ほどの出来事を思い出し、二人は揃って恐怖で身を震わせる。

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