No.44 真犯人と最後の悪あがき
「あんたにもう打つ手はないわよ! 諦めなさい!」
決着はほぼ着いたと言えよう、ナツの強気の発言も当然のことである。
『戦闘力』でアキに敵うものは存在しない。
ナツたちは知らないことだが、既に『鬼』型のデブリをも下しているのだ。
巨大デブリも一蹴するアキを止めることは不可能だろう。
「良樹たちも無事に取り戻せた……本当に良かった……!」
二人は気を失っているが、呼吸も正常であるし外傷も見当たらない。
巨大デブリから取り返した今、もう安心しても良いだろう。
自分のせいで友人たちを傷つけることになったハルだが、少なくとも二人に目立った怪我がないことに心の底から安堵した。
「……!」
圧倒的不利な状況ではあるものの、コハルはまだ諦めたような表情を見せない。
打つ手はない、ナツはそう言うがコハルの手札は尽きていない――そう内心で思っているのを見透かして、ナツが自ら告げる。
「さっきも言った通り、
つまり、助けを待っても無駄ってこと」
「……N世界側にも協力者がいたのか……」
ナツが少し傷ついているのは、おそらくN世界でその『協力者』とひと悶着があったのだろうと推測する。
そして、彼女の言葉で今回の事件の構造が完全に明らかになったと言える。
H世界にデブリを呼びよせていた元凶はコハル――これは間違いない。
しかし、コハルだけでは説明がつかないこともある。
例えば今日の襲撃――ナツを装ってハルの油断を誘うためには、ナツが不在であることが確定していなければならない。
ナツがN世界へと戻るという情報を得るだけならば、コハルであれば何とかできるかもしれないが、異変に気付いたナツが戻ってきてハルと合流してしまったら意味がない。
だからナツをN世界に足止めする役目が最低でも必要になるはずだ。
……あるいは、コハルだけで大量のデブリを呼びよせることはできないのかもしれない。それを助けるためにも、N世界側から何か手引きをしていた可能性はある。
「N世界の協力者は――」
そこで一旦辛そうに言葉を切るナツを見て、ハルは協力者が誰なのかを悟り言葉を継ぐ。
「
「うん……」
ハルの予想通りだった。
N世界で見たナツと風見真理の関係は、思った以上に険悪なように見えた。
が、一つ疑問というか違和感をハルは覚えていた。
それは、仮にN世界において二人の関係が悪かったとしたら、
最初から二人の仲が険悪であれば、ナツとN世界風見との間はもっと冷え切った――他人の目があるところであれば互いに不干渉を貫くか、あるいは悪し様に罵り合うような態度になったとハルには思えた。
しかしそうはなっておらず、むしろナツからN世界風見に対してどう接すれば良いのかわからない……といった態度が見受けられた。
また、H世界での風見真理に対しては何のわだかまりもなく、むしろ前からの親友であるかのように振る舞っていた。
「……なるほど、
「そういうこと、みたい」
ナツがハルの考えを肯定する。
順序としては、コハルの出現ではなくN世界の風見真理がデブリと入れ替わった方が先だったのだ。
そして、N世界側からの介入によってコハルが生まれ、今回の事件を引き起こした。
「ということは、きっかけはこっちの世界の良樹と風見さんが付き合いだしたことだろうな」
ちらりと気を失いアキに抱えられている二人へと視線を送る。
「うん。事情聴取とかは流石にできてないけど……経緯を考えたらそうなると思う」
「それで、N世界の風見さんは……?」
「あ、マリちゃんは無事! というか、デブリに身体を乗っ取られてたみたい……」
「そうか……無事なのは良かった」
デブリの特性などわからないが、おそらくコハルの時とは事情が大きく異なる――成り替わろうとする対象の『性別』だ――ためだろう。
もしかしたら完全にデブリに入れ替わられる可能性もあったが、N風見の知識等が必要だったのではないか。だから、入れ替わりではなく『乗っ取り』だったのかもしれない、とハルは自分を納得させる。
何にせよ、この件ではN風見も被害者だ。乗っ取られたのは災いではあったが、結果無事に済んだようなので良かったと素直に安堵する。
……『女嫌い』だとは言っても、だからと言って見境なく女全てを敵視しているわけではないのだ。
経緯についてもハルは予想できていた。
風見が良樹のことを好きなのは、H世界に似た世界であれば共通なのだろう。
そんな時、H世界で二人が付き合うことになった――これがきっかけとなる。
推測でしかないが、N世界の風見もそれを知り……『嫉妬』したことはそう的外れではないはず。
その心の隙をデブリが狙い、どういうわけかはわからないがN風見へと乗り移り――今回の件を起こした、大まかな流れはそういうことなのだろう。
最近になってデブリが出現してきた理由も、コハルだけではない。N風見デブリが絡んでいたのだ。
全ては良樹と風見がきっかけとなって……。
ハルが狙われている理由は、コハルについては本人が言った通りだろう。
N風見デブリについては想像でしかないが、コハルの援護……だけでなくナツに対しての『嫌がらせ』が多分に含まれていると思われる。
「とにかく、後はコハルをどうにかすれば終わりってことだな」
「うん、それは間違いないわ」
「それじゃ~、終わらせちゃいましょうかねぇ~」
良樹たちをハルたちに渡し、アキが前へと出る。
鬼デブリも巨大デブリもあっという間に倒せるアキだ、いかに特殊な存在と言ってもコハルでは対抗のしようもない。
全ての謎も解かれ、後は決着をつけるだけ――それは間違いないはずだった。
「まだ……まだよ!」
コハルがそう叫ぶと共に、ショッピングモールの外側から黒い影が飛び出しコハルを庇うように立ちはだかる。
現れたのは鬼デブリ――だがそれは問題にはならない。
問題なのは、鬼デブリが片手で捕まえている小柄な少女の姿だった。
「――フユ!?」
鬼デブリに捕まっていたのは、行方がわからなくなっていたフユだったのだ……!
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