第35話
箱型転移魔道具を自室で大量に用意してると、アレクサンダーが突然訪ねてきた。
「エルナ様!グリュネ様がお越しです!」
「グリュネ?ちょっと待っててって言っといて頂戴。」
地方の村、その数2000村分の転移魔道具を用意しないといけないんだ。こちらも中々忙しくて、グリュネにかまってはいられないんだ。後でゆっくり面会するとしよう。
「しかしエルナ様!緊急だそうです!」
「緊急?要件はなんて?」
「『アルビオンが動き出した』とおっしゃっていました。」
***
アルビオンが動き出した。つまり本格的に王選に勝ちにいくということだ。
「グリュネ!アルビオンはどうした!」
「エルナ、やっと来たわね!」
応接室のソファに座っていたグリュネが、パッと立ち上がり、私の元へ駆け寄ってくる。
「アルビオンが暗号を発信したわ。」
「暗号?」
「そうだわ。部下に不思議なことを伝えてたわ。」
「不思議なこと?」
「ええ。『とうきょー』やら、『がちかー』ーだったかしら?って言ってたわ。」
『とうきょー』と『がちかー』か。ん?なんか聞き覚えがあるんだよな。
「ごめんグリュネ、どういう文脈でこの二つの言葉は使われていたの?」
「えっと、確か『とうきょーじゃあこんなことなかった』と『飯がこんなにまずいってがちかー』って言ってましたね。この文章丸ごとが暗号なんでしょうか?」
嘘だろ。
『とうきょー』は間違いなく『東京』だ。そして『がちかー』はもちろん『ガチか』だ。こんな喋り方、まるで日本人じゃないか。
他の異世界転生者がアルビオンに『東京』やらを伝えたのか?いや、それにしては『ガチか』は新しすぎる。まさに十代二十代前半のような喋り方だ。Z世代っぽいな。つまり、平成か令和生まれってことは、最近転生したばっかりってことか……
もしかすると、アルビオンは転生者かもしれない。
こういう時はスキル『人物紹介』を使ってみればいい。
スキルを発動させて、アルビオンを検索する。どれどれーアルビオン・クルーガー、公爵。うーん、他にも知ってることしか書いてない。やっぱり勘違いかと思った瞬間、一つ気になる見出しを見つけた。
(前世?)
前世と書かれた見出しを凝視する。前世。つまりアルビオンは俺と同じ転生者であること。そして高確率で日本人であるということ。
恐る恐る本文を読んでみる。
『前世:高野皐月(1996年生まれ、2023年死亡)』
高野?待ってくれ、きっと何かの勘違いじゃー
『役職:東京知事の秘書』
いやいや、そんな訳ない。高野はだって、生きていたじゃないか。俺があの通り魔から救ってー
『死因:自殺』
う、嘘だろ。自殺?あいつが?俺は死ぬ前に、生きろと言い残したはずなのに。なんで自殺を?
「エルナ?大丈夫?」
「グリュネ、少し一人の時間をくれない?」
俺の表情で察したのか、グリュネは黙って部屋から退出していった。
高野がアルビオン。スキルは嘘をつかない。これは紛れもない真実だ。一体なぜ……
『スキル:恋愛相関図で前世の自殺への経路を閲覧できます。閲覧しますか?』
自殺までの経路?つまりなぜ高野が自殺をしたのか、か。
知っておきたい。なぜ高野が自殺をしたのか。
(YESだ。閲覧する。)
『了解しました。高野皐月の死亡までを表示します。』
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