第38話
いよいよ勝負の日、王選当日。
満を持して、アルビオンとの決戦が始まる。昨日はワクワク?ドキドキ?どちらとも言えない複雑な気持ちに襲われて寝れなかった。
ああ、怖い。転移魔法具がもし正常に作動しなかったら、俺が王選に勝利するのはそりゃあ絶望的だ。そうなったら恨むぞ、ゲルシスさんよ。
「じゃあ、色々準備するか。」
残念ながら俺は、王選当日をゆっくりと過ごす訳じゃない。当日も投票所近くに張って、一人でも多くの票を取れるよう演説を行わないといけないんだ。
そして演説を行わないといけない以上、原稿の確認や、化粧など、非常に忙しい。朝型でもない俺が早朝から起きてこんな重労働をするのは心外だ。
でも高野に勝つためには必要なことだ。勝つためなら出来ることは全てやる。今世もみっともない姿を見せる訳にはいかない。
「よぉし!やるぞ!」
「おお、常和気が入ってるナ。」
「なんだ李か。びっくりさせるなよ。」
「悪い悪イ。」
「まあ原稿も仕上がったし、化粧も(フランシスにやってもらった)できたし、準備万端だな。」
「そうカ。きっと常和なら勝てるサ。」
「そう言ってくれると嬉しいぜ。じゃあ、一発かましてくるか。」
「おウ!」
投票開始時間は午前七時。終了は午後八時。今日一日は祝日になっているため老若男女が投票しに外を出歩く。投票所は王都内八ヶ所に設置されていて、各地が等しいウェイトを持っている。
更にこの王選で最も意外だったのは、随時得票率が更新されることだ。リアルタイムの得票率に応じて戦法を多彩に変えられるのは新鮮で魅力的だ。
さあどうしようかな。アルビオンに勝っている唯一の部分は財力だ。今や大企業となったフラエルの財力は公爵家のそれをゆうに超えている。
財力でパンフレットの作成や、宣伝の設置などを行って、印象の操作を行う。それに加えてフランシスなど側近達には俺と同じように各投票所付近で演説を行わせる。やるからには徹底的にやる。それが今の俺だ。
さて、いよいよ七時。王選が開始される頃だな。さあ、どう動くかな、高野?
『ガーンガーン』
王城の鐘が鳴る。これが王選開始の合図。
鐘の音と共に大量の一般人が投票所に雪崩れ込む。そしてそれと同時に俺たちも演説やら宣伝を片っ端からやっていく。
あとは地方勢の到着を待つだけだ。一応ゲルシスさんが魔法陣の管理をしているそうだから、多分大丈夫だと思うけど。俺たちの反撃が始まるのは多分あと一時間くらいかな。
***
というわけで一時間、いや二時間待った。リアルタイム得票率を確認してるんだけど、依然俺たちの得票率は低迷。具体的には10%。明らかに低すぎる。
さっきゲルシスから報告があったけど、きちんと地方住民は王都に到着しているらしい。それにも関わらずこの得票率は、おかしい。
アルビオンの得票率は90%。俺の票がアルビオンのところに流れていってるってことか。
高野、一枚噛んでるな。だが、どうやって。
ん?アルビオン、というか高野は転生者だよな。つまり、俺と同じようにスキルを持っている確率が高いってことだろ。李でも持ってるんだ、高野が持ってても何も不思議じゃない。
つまり、高野は何かスキルを持っているってことだ。そもそもおかしかったじゃないか。王都での得票率100%ってことは一人も異論が無かったってことだ。それは何がなんでもおかしい。一人は反社やらが反対してるはずだ。
100%は論理的に考えて不可能だ。俺のスキルでは高野のスキルは分からないけど、推測くらいは出来る。
高野は、多分精神に左右するスキルを持っている。きっと世論操作のようなスキルなんだろうけど、無条件でそれを発動するのは流石にぶっ壊れだ。
俺のスキルでも条件がついてるんだから、高野の世論操作スキル(仮)が無条件な訳ない。しかも、高野は自分自身のスキルの存在に気付いてるかも分からない。
ここは迂闊に動かずにある程度様子見したい所だけど、正直言って時間がない。高野のスキルの能力と条件をすぐに暴いて、俺の得票率を上げないといけない。
さて、どうしようか。絶体絶命のピンチに陥ってしまったのだった。
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