第39話
気づけば俺は後先考えず町中を走り回っていた。アルビオンは一体どこだ。あいつは一体何をしてるんだ。
なぜ俺の得票率は低迷してるのか。その答えを一刻も早く調べなければ。数十分間走り回った末、南地区の投票所前で演説してるアルビオンをやっと見つけた。
何か変なことをしているような様子もないし、アルビオンは自分自身のスキルの存在に気づいていないらしい。これはつまり、アルビオンのスキルが無意識中で発動するものだということだ。
ならアルビオンのスキルは一体どんなものなんだ?これほどまで世論に影響を与えるスキルなんてまさにチートじゃないか。
でも俺にも一応票は入ってきてるんだよな。アルビオンの得票率は決して100%ではなくて、80%台を上下してる。きちんと俺には地方からの票が入ってきているのに、なぜか得票率が伸びない。
この数値の矛盾は一体なんなんだ。あー、胸糞悪りぃ。こうなったら実際に投票をした当人に聞いてみるしかないか。
「ねぇ、そこの君。」
「えっ、誰?ですか?」
「それはどうでもいいの。それよりよ、君はどこ出身かな?」
「えっと、郊外のポズレム村ですけど……」
ポズレム村か。確か地方村の一つだったな。ただ、直接演説に行ったわけではない。ゲルシスが魔道具やチラシを配布しただけだ。
「じゃあボズレム村の君、誰に投票したのかな?」
「それはもちろん……アルビオン様でーあれ?なんで俺アルビオン様に投票してるんだ?」
おかしい。地方への出張を行ったのは確実に俺だけ。なのになぜ地方の人々がアルビオンのことを知っているのだろうか。演説を聞いて感化されたということもあり得るが、それでもいきなり投票先を変更するのは不自然だ。
そして何より、当の本人が困惑している。これはつまり、何か見えない力が働いているということだ。
その後も何人かに話を聞いてみると、やっぱり皆アルビオンになぜか投票していたと口を揃えていた。一方できちんと俺に投票した人もいた。
データが増えると共に、ある規則性が見えてきた。アルビオンから影響を受ける者は俺から直接演説を受けていない人だ。一方で俺の演説を受けた人たちはきちんと俺に投票をしていた。
つまり、アルビオンのスキルの影響を受けるのは、俺の演説を聞いてない奴だけってことか。なら対策は簡単だ。全員に演説を聞かせればいいだけのこと。
さて、忙しくなりそうだな。
***
全員に演説を聞かせることはスピーカーやらメガフォンがあれば簡単なんだけど、もちろんこの世界にそんなものはない。こうなったらどうすればいいんだ。
まず大前提として、魔法陣近くでフランシスかグリュネに演説させるとして、既に街に入ってしまった地方の方々への対応はどうすればいいんだろうかな。街に転移済の地方民は5割程度。この5割のうち、3割はアルビオンのスキルに対して抗体がない。そしてもちろんのこと、この3割を俺が取れなければ、負けは必至だ。
この3割の地方民が固まってればまだしも、分散してしまってるからな。一気に演説を聞かせたいところなんだけど、どうも難しそうだ。
「ねぇゲルシス、『拡声』の魔法ってあるかしら?」
「『拡声』はないけど……似たようなものはあるわ。」
「似たようなもの?」
「代償が大きいけど、『拡声』と同じ効果を持つ魔法があるわ。」
「それは一体……」
「王都内に居る全員への『念話』だわ。」
「念話?」
「そう、念話よ。『念話』という魔法自体の代償はないものの、もし今王都内に居る全員に念話を送るとしたら、莫大な魔力が必要だわ。」
「その魔力はどうやって供給するのかしら?」
「私の魔力だけでは不十分だわ。あなたの魔力も貸して欲しいの。」
「え?でも私魔力ないわよ?」
「その通り。だからここで君の生命力を魔力へと変換して、『念話』を実現させるの。」
「私に命を削れと。」
「そうよ。5年分の命を削れば『念話』が可能になるわ。」
命を5年削れと。私はこの世界で何年生きていけるか分からない。明日かもしれないし、明後日かもしれないし、一ヶ月後かもしれない。そんな俺に命を5年削れと。
俺は生きたい。今世はゆっくりと老いて、楽しい老後生活を送りたい。それでもやっぱり、俺は命を犠牲にしてまでもアルビオン、いや高野に勝ちたい。ここで俺が王になって、俺が変わったと証明する。
それこそが俺の生きがいだ。
「ゲルシス、思いっきり頼むわ。5年くらいくれてやるわ。」
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