第40話
「グッー!」
寿命が急激に吸い取られる感覚は決して気持ちよくない。まるで体中から針を刺されてるような痛み、痺れ、そして脱力感。前世で死んだ時の感覚と似たものがある。
「出来たわ!」
そうゲルシスが唱えた瞬間、その不快感は全て消えた。しかし未だに違和感は残る。どうやらきっちり寿命を吸われたみたいだな。
さて、ようやく俺の出番だ。
「いつでもいいか?」
おっと、思わず男口調に戻っちゃってたーって今は集中!演説するんだから!
「い、いいわよ。」
急な口調の変化に戸惑うゲルシスを他所に、俺は演説を始める。
『聞けぇ、王都、いやこの国の国民よ!私は王選候補のエルナという者だ。今現在、念話を用いて王都内にいる全員に話している。』
『言いたいことは一つ!私に投票しろ!そうすればこの国は必ず繁栄する!もししなかったら、私は命を賭けて嘘を吐いたことを詫びる!』
『公約なんてものは皆で考える。皆で考え、動き、栄える政治を私は約束する。そしてこの国中全域、地方民も誰も置いていかない!私の元で、皆仲良く栄えようじゃないか!』
「エルナ、そろそろ限界よ!」
ゲルシスの魔力は尽きかけのようで、血色が悪い。命の危険が迫りそうなので、俺もここで演説を切りあげる。ここで倒れられたら困ってしまうからな。
「お疲れ。ありがとうね、ゲルシス。」
「いやいや、君も言うねぇ。命で償うなんて言っちゃって。これなら勝てそうじゃないか。
でもとりあえずできることはやった。やっと勝ち筋が見えた。
そう皆が思っていたが、現実は甘くない。
一時間近く経った今でも、形勢は全く変化することがない。アルビオンの圧倒が続くだけ。
一体なぜだ。念話はきちんと通じていたとグリュネなどから報告を受けた。きちんと演説は機能しているはずなのに、なぜか得票率は膠着気味。
答えは一つしかないじゃないか。アルビオンのスキルの能力を勘違いしてるとしか考えられない。
表面的なデータでは説明不可能な能力。別に演説を聞いたか聞いてないかは関係していない。なら一体何が?
「うおっ!」
念じてもいないのにスキル『恋愛相関図』が起動されて驚いてしまった。
起動しろなんて言ってないのに、一体どうしたって言うんだよ。勝手に起動したホログラムを覗き込むと、驚くべき内容が表示されていた。
「なるほど。わかったよ。」
なぜ神達は高野に俺を見つけるためのヒントを『プロポーズを断った者』にしたのか、ずっと気がかりだった。転生先が美麗なアルビオンとはいえ、プロポーズを断るものはもちろんいるだろう。人妻とかね。
じゃあなぜ?俺だけがその『プロポーズ』という行為に対して抗体がある。
恋愛相関図によると、どうやら王都内に居る人たち全員アルビオンのことを愛している。いや、死ぬほど愛しているそうだ。それは男女、老若問わず。みんながみんなアルビオンを狂気と思うほどに好いている。
おかしいと思ってたんだよ。自分たちでもなぜアルビオンに投票したか分からない地方の人たち。理性を忘れてアルビオンに投票を入れてしまうその衝動の名前を俺は良く知っている。
『愛』
アルビオンのスキルは世論操作なんていうちっぽけなものではなかった。王都内の人々を皆惚れさせるスキルだということか。スキルの存在を知っている李やゲルシスとかは大丈夫そうだけど、アレクサンダーやグリュネ、フランシスもこのスキルの影響を受けている。
もしくはスキルの存在を認知している人たちにこのスキルは効かないということか。
俺の脳裏には一つしか言葉が浮かばなかった。
『ゲームオーバー』
でも、俺は負けたくない。今世でも俺は一人では何も出来ないのか?いやだ。
勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい。
勝ちたい!
《執念の要素を感知しました》
「へ?」
《情熱、愛、執念の三要素が揃いました。これによって、スキル『恋愛相関図』のレベルアップの条件を満たしました》
この声は……前も聞いたことがある。スキルがレベルアップした時に聞いた、『世界の声』。
《あなたに、この逆境を越える力を授けましょう。》
「待て。」
《??》
「それを使えば、勝てるのか?」
《愚問。もちろんです。》
「じゃあ、その力寄越せや。」
《了解しました》
俺の魂に刻まれたスキル『恋愛相関図』がゆっくりと姿を変えていくのを感じる。
《スキル『恋愛相関図』がレベルMAXになりました》
レベルMAX。俺のスキルの最終形態。その能力はまさに逆境を退ける物だったー
《スキル『恋愛相関図』》
触れた対象の相関図を編集することができる。
ついに始まる、反撃の時間。さあアルビオン、いや高野よ。最終決戦だぜ。
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