第41話

 『恋愛相関図』がレベルアップした。俺が新たに得た能力は、『恋愛相関図』の編集。俺は触れた対象の人間関係を改変出来るってことだ。


 これが、俺のスキルがアルビオンの『惚れさせる』スキルに対抗できる唯一の手段。


「高野、ここからは真っ向勝負だ。」


 俺がすべきことは一つ。アルビオンのスキルの影響を受けている人たちを我に返す。触れて触れて、触れまくって、出来るだけ多くの人を我に返す。


 王選が終了するまであと五時間。この短い時間の中で俺は形勢をひっくり返さないといけない。


 つまり、時間が圧倒的にない。


「なら、やるしかねえよな」


 俺は一人ずつ触れていくことを決心し、まずは一番近くにいる女子生徒に触れる。いやダメだ、これじゃあ遅すぎる。


 ペースを上げる。違う。これも遅すぎる。


 足をもっと回せ。もっともっと。


 千切れたドレスの裾も、踵にできた大きな靴擦れも忘れて、俺は一心不乱に走った。そして触れ続けた。


 時間も忘れ、必死に、本当に必死に走った。汗だくになりながら、肩で息をしながら。


 痛い。痛いけど。


 辛い。辛いけど……


 負けたくない。今回も負けたくたいッ!


 だから俺は腕を振り続ける。命をかけても、俺は絶対に勝つ!


 クッ、目眩が……


 熱中症か脱水か、定かでは無いけれども、少しずつ意識が遠のいていく気がする。くそっ、俺はここで倒れるわけにはいかないのにッ……


 腕を伸ばせっ!更に多くの人に触れるんだ!勝つんだ!


 しかしその抵抗も虚しく、俺の意識は完全に暗転した。


***


 くっ、眩しい。どうやら自室のベッドの上で目を覚ましたみたいだ。ーって!俺はアルビオンのスキルを無効化するために走り続けてて……その後気を失って……


「あ!エルナお姉ちゃん!」


 俺が起きたことに気づいたフランシスが元気良く俺に声をかける。


「フランシス?」


「良かった!死んだと思ったわ!」


「死んでねーゴホッ、無いわよ。」


「良かったわ。選挙活動中に脱水で倒れたと聞いた時はびっくりしたよ。」


「おまけに靴擦れはひどいし、ドレスは破れてるし。」


「ごめんごめん。」


「で、聞きたいことがあるんじゃない?」


「私は何日寝てた?」


「二日よ。毎日うなされてたわよ、『タカノォ!』ってずっと叫んでたわ。」


 げっ、夢見ながらなんていうことを叫んでるんだ。高野にぞっこんみたいじゃないかよ。恥ずかし!


 って、二日経ったってことは王選の結果が出てるじゃないか!


「フランシス、王選はどうなった?」


「それは、自分で確認した方が早いと思うわ。」


 フランシスは外を意味深に指差した。


「分かった。」


 俺はフランシスに促されるまま部屋の外に出ると、大きな歓声に迎えられる。


『新女王エルナ様がお見えです!!』


「うぉぉぉぉおおおおおお!」


 俺に対する大歓声。その数ざっと数千、いやもっとか?ともかく俺の予想を遥かに超える数の人々が、俺のことを讃えている。


「エルナ様バンザイ!!」

『新女王エルナ様がお見えになりました!』

『新女王エルナ様に祝福を!』


 アルビオンの得票率は49%で俺の得票率は50%。その他が1%で、過半数を占めた俺が、王選で当選した。


 事実、僅か1%の勝利。しかし、この勝利は俺が今までに積み重ねてきた全ての努力の結実だ。


 そして、俺をここまで押し上げてくれた高野にも、感謝しないといけないな。

俺は、沢山の歓声を浴びながらゆっくりと観客を一望する。


『新女王エルナ様万歳!』

『新女王エルナ様に祝福を!』


 その群衆の中心には、高野が満面の笑みで俺のことを迎えてくれる。その笑顔を見て俺もまた幸せな気分になる。


「おめでとう、常和先輩。」


「おめでとう!」

「エルナ王女様!万歳!!」


 そして、俺の名を呼ぶ声が王都中に響き渡る。新しき女王の誕生を祝福する声に包まれながら俺は王選が終わったことに対する安堵と、高野に勝ったことによる勝利の高揚感に包まれるのだった。

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