第三章

第42話

『新王、エルナ様の戴冠式を行う!』


 豪華な広場に男らしい声が響き渡る。


 王選が決着してから約一ヶ月、俺は正式に王となる。本日の戴冠式を経て、俺に権力が移る。どれだけ今日のことを待ち侘びたことか。


『ではエルナ様、冠を。』


 偉そうな文官が俺の頭に冠を載せる。この瞬間、私は正式に王となった。


『ここに新たなる王が誕生した!今よりこの王国は新しく生まれ変わる!』


 文官の言葉のあと、歓声が聞こえる。誇らしい気分だ。思わず口角が上がっちゃう。


『では、本題に移る。』


 え?本題?戴冠式が本題じゃなかったの?


「ねぇフランシス、本題って何よ。」


 側に控えていたフランシスにこっそりと耳打ちする。


「また忘れちゃったの?今日は戴冠式と各部王を決める日でしょ。」


 ん?各部王?部王ってなんだよ。


「部王って言うのはねー」


 フランシスの話によると、大臣的なポジションのことを部王と呼ぶらしい。ただ、日本みたいにたくさんの大臣がいる訳ではなく、経済部王、武部王、生産部王、政部王、広報部王、副王の僅か六人で国が回る。


 経済部王や武部王は名前のまんま。生産部王は農業などの生産を司り、政部は政治。広報は国民への連絡事項など。副王は王代理って感じだな。


 それにしても『〜部王』ってすごくいかついな。なんか怖いというか……国民に信用されなさそう。


 それにしても六人の精鋭を選ばなければいけないってことか。


 悩むなぁ。俺の部下をまずリストアップしていくと、フランシス、グリュネ、李、アレクサンダー、アウフとタクトの双子。あとフラエル幹部の方達か。


 結構粒揃いだからなぁ。これは相当悩む。


『ではエルナ王よ!部王の指名をお願いします!』


 くっ、もうタイムリミットか。強固な内閣において重要なのは、各々の士気、信頼そして実力だ。この三つをバランスよく取れれば良い内閣が出来上がる。


 さて、まず決めやすそうな広報部王からいくか。これに限っては一択だ。


『まず広報部王!アウフとタクトの二名を指名する!』


 随分俺も王らしい喋り方ができるようになったな。まさに血が滲むほどの練習の成果だな。


『二名ッ?』


『ええ、二名です。何か問題でも?』


『い、いえ……』


 良し、じゃあ次だ。武部王も複数人任命可能なら、簡単に決まるな。


『じゃあ次よ。武部王に李鷹山、アレクサンダー・ベイン、そしてゲルシス・フリーマンを指名する!』


『さ、三人?なんと無茶苦茶な!』


『問題でも?』


「い、いえ。」


 さて、残ったのは生産部王、経済部王、政部王、そして副王の四つだな。政部王においてはグリュネかフランシスで迷っているけど、グリュネにはフラエルを任したいからな。俺が王になった以上、会社の運営はできないし。


 だから消去法でフランシスが政部王だな。


『次!政部王はフランシスを指名する!』


 フランシスが可愛くガッツポーズをする。まあ今後も頼りにしてますよ、フランシス君。


 まずいな。そろそろ手札が減ってきた。グリュネはフラエルの管理をしなければいけないし、残ったのはフラエル幹部くらい。他の役職をどうすればいいのか。


 こうなったらー


『そして経済部王もフランシスを指名する!』


「はぁ!?」


 フランシスも驚いた様子だ。申し訳ないが、正直言ってフランシスにどっちも任せた方が一番いい結果が生まれる気がするんだよな。なので、信頼の証だと思って、奮闘してもらいたい。


『ただし、経済部王補佐として、ルーカスを指名する。』


 だが流石に荷が重すぎる。フランシス一人で二つの部を仕切るのは流石に無理だ。グリュネを借り出せればいいんだけど、フラエルを支えてもらいたいし。


 という訳でフラエル幹部のルーカス君を補佐に任命してっと。あとは残り二役職。ある程度見当はついているからバンバン行っちゃおう。


『まず生産部王にヘンリーを指名する。』


「だ、誰ですか?そのヘンリーっていうのは。」


 ヘンリーって聞いてピンと来る人はあまり居ないだろうなーグリュネ以外は。そう、ヘンリーはグリュネの入院中の夫のことだ。


 聞いた話によるとヘンリーは農業や産業についてめっぽう詳しいらしく、自身の領地を常に王都内生産率トップに導いていたらしい。ただ、彼が病に倒れた後は生産が低迷、貧困層の仲間入りだったそうだ。


 そんなヘンリーだが、俺の助けもあって無事に復活したそうだ。今ではほとんど完治だそうで、是非仕事を紹介して欲しいと頼まれていた。


 グリュネの家族だということもあるし、実績も申し分ない。ヘンリー君を生産部王に大抜擢することに至ったのさ。


『じゃあ最後、副王ね。』


 最初に思い描いていた副王は意外なことに李だった。あいつは政治に詳しくはないが、地球の政治観念を知る者として、有意義な情報共有ができる。


 でも李と同じ条件の奴が他にもいるんだよな。俺のライバルと言える忌まわしき存在、アルビオン・クルーガーこと高野だ。


 あいつとは元々の付き合いだし、実力も折り紙付きだ。気も合うし、正直言って李より相当魅力的な候補だった。


 でも選挙で打ち勝った相手を指名するなんてどうなんだろう、と一度思ってしまったが、それでも高野の有能さは喉が出るほど欲しい。見栄なんて捨ててもいいくらい、高野は強い。


『副王には、アルビオン・クルーガーを指名する!』


「クルーガー?最近討ち勝った?」

「王はご乱心か!」


 広場がざわめく。ごちゃごちゃうるさいな。俺が熟考した上で下した判断だ!邪魔すんな!


『異論は認めない。これで全員指名したはずだけど、問題あるかしら?』


『も、問題はございません。』


『なら結構。この場は解散とします。ではみなさん、しっしっ』


 みんなが散り散りに帰って行く。はぁ、疲れた。どうにか上手く行ったのかな?


 どちらにせよ、異例尽くしのエルナ政権がついに始動するのだった。

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