第43話

「あり得ないですよ!常和先輩!」


 アルビオンが大きく声を張り上げる。


「私が負けたのに、なんで負け犬の私を副王として指名したんですか!」


 アルビオン、というか高野が子犬のように泣き出す。美形のアルビオンが泣く姿はちょっと新鮮で、愛しく思えてしまう。


 これが母性ってやつなのか……


「まあ、それは高野が優秀だからだし……」


「そっ、そんなこと言われたら頑張りたくなっちゃうじゃないですかぁ……」


 高野は明らかに照れている。なんか、可愛いな。前世とほとんど変わっていない故、心が癒される。


 姿は違えど、前世のような会話ができて幸せだな。


「よし!じゃあ仕事を始めるか!」


「そうですね!」


 ん?てか仕事?王になったのはいいけど、俺、何すればいいの?すごく広い王室に案内された後は、何も説明されてないし。なんかマニュアルとかないんですかねー


「先輩、もしかして王の仕事内容分かってないんですか?」


 あ、バレた。


「えっ、そんなのもわからずに王選に出馬したんですか?」


「は、はい。」


「あーもう!本当に手が焼ける!」


「す、すみません……」


「じゃあ説明しますね!王っていうのは、知事となんら変わりません。色んな部署をまとめ上げる存在です。」


「なるほど。」


「でも一つ違う何かがあるとしたら、外交っていう分野が増えるということです。」


「外交……」


 外交か……一応アレクサンダーに王国内のことは教えてもらったけど、王国外のことはほとんど教えてもらっていない。


「この様子だと外交においては無知のようですね」


 ぐっ、高野の冷たい眼差しが痛い。


「この王国の名前くらいはわかりますよね?」


 この王国の名前くらいーって分からない……ずっと王国呼びだったからな。ここは正直に分からないって言って、教えてもらうとしよう!


「わかりません!」


「先輩、よく生きてられましたね……」


 でも先生が言ってたもん!知らないっていうのは恥じゃないもん!知らないって言い出せないことが恥だって。


「まあともかく説明しますね!」


 そう言うと、高野は巨大な地図を取り出す。180cm後半のアルビオンがすっぽりと隠れてしまう程の地図には、アフリカ大陸にどこか似ている縦長の大陸が中心に描かれていた。


「これが世界です!」


「えっ、これだけ?」


「そうです!」


 どうやらこの異世界は随分と狭いらしい。今まで判明した大陸はどうやらこのアフリカもどきだけで、他にはないらしい。


 これはつまり、国がたくさんこの大陸に集中しているということだ。イメージとしてはヨーロッパって感じかな。


「じゃあこの中で、俺たちの王国はどこなんだ?」


「それはこれです!」


 高野が指差したのは、大陸のど真ん中に位置する、大国だった。地図の四分の一ほどを占めるその国の名は、どうやらピスタチオ帝国というらしい。


 ピスタチオ帝国って、ださっ。


「で、その周りを三つの大国が囲っていて、まず北のアイビス帝国、南のキリア、そして西のサン=ウン=デスティロ共和国です!」


 地図をみている限り、他の国はほとんどが小国で、大陸の四大柱はこれら四国らしいな。


「この四国は皆同盟を組んでいて、これをザフマン同盟って言うんですけど、同盟のおかげで貿易や平和が維持されてる感じですね。」


「なるほど。じゃあ貿易も随分簡単そうだな。」


「それが、そうも行かないんですよ。」


「ん?どういうことだ?」


「実は、アイビス帝国がキリア国から侵略を受けているとの報告を受けたんです。」


 高野の話によると、我が国の国境沿いにアイビスへと足を進めるキリア軍の姿が森の中で発見されたらしい。話も裏が取れていて、アイビスはどうやら絶賛侵略されているそうだ。


「だが、これは同盟違反では?」


「ええ、もちろんです。だからピスタチオとサン=ウン=デスティロ共和国は同盟軍をアイビスへと送って、離反国のキリア国を討伐、後に断罪しないといけないんです。」


「それってつまり……」


「流石先輩!勘がいいですね!戦地へと赴く時です!」


 どうやら、王が同盟軍を率いることが慣例となっていて、加えてはアイビスの状況確認並びに他の同盟国代表との会談など、大量の仕事がアイビスでは待っていた。


 という訳で、俺は今日にもアイビスへと軍を引き連れ出発することになったのだった。

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転生知事に恋愛は難しい〜乙女ゲー世界を俺は民主主義で無双します 或真 @arumakun

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