第44話

 アイビス帝国は軍事面においては、他の国々と比べて突出している。特にアイビス空軍は世界最強の兵隊と謳われており、そんな軍国アイビスが救援要請を行うのはまさに異例だそうだ。




 そのため、緊急度が高く、即日出発ということになった。しかも滅多に使うことのない転移魔法陣でだ。




 俺は二万もの大軍を引き連れ、超大型魔法陣へと飛び込んだ。着地した先はアイビス帝国の王城前のようで、貴族?らしき方々が出迎えてくださった。




「ようこそ!ピスタチオ王国新王エルナ様よ!お待ちしておりました!」




 代表して一人の貴族が俺に挨拶する。うむ、新王なかなかにいい響きだ。




 それにしても、アイビス帝国って色々不思議だな。貴族の皆さんは全員軍服だし、王城もどちらかというと要塞だし。まるで魔王の根城へと迷い込んでしまったみたいだ。




「お迎え感謝します。こちら私の武部王、ゲルシスです。」




「お初にお目にかかります、ピスタチオ王国魔法団団長、並びに武部王のゲルシスです。」




 今日連れてきた側近はゲルシスだけだ。政権発足直後ということもあって、みんな忙しいのだ。今までやってこなかった書類処理に四苦八苦している。まあその中でフランシスだけは暇そうだったけど、この場合あんまり役に立たないからお留守番だ。




「さて、王がお待ちです。応接室へと案内します。」




 俺は軍をゲルシスに任せて、応接室に向かうことにした。王を待たせる訳には行かないからな。




 案内された応接室は俺が見てきた中で最も豪華なものだった。付き人は全方向にいるし、明らかに高価な絵画やら彫刻やらが大量に置いてある。煽ってるのか分からないけど、値段のタグがついてるやつもあった。




 なんかムカつくな。




 そして何より注目すべきが壁!純金でできた壁は見たことない。光が反射して正直言って常時眩しい。




 そんな部屋の中心にドンと構える小太りのおっさんがどうやら王みたいだ。前に調べといた内容によると、こいつの名前はジェイムス=ウォーブラッドというらしく、一応戦士らしい。




 しかも結構腕利きなそうで、このまんまる体型のくせに相当動けるそうだ。




「エルナ殿、待っておりましたよ!」




「ジェイムス王。一体何が起こってるのでしょうか。」




「それがですね、私たち、戦争状態にいたんですけど……」




「居た?今も続行中じゃなくて?」




「ええ、今はもう終戦しております。」




 ジェイムスの代わりに隣に控える執事らしき人物が応える。メガネを掛けた、アジア系のイケメンだ。よくテレビで見かけそうな顔をしている。なぜか哀愁溢れる顔をしているな。




 それよりだ。一体終戦とは。俺が出発する前までは絶賛戦闘中だったはずなんだが。




「どういうことでしょうか。」




「実は私たちアイビス帝国は、キリア国の植民地になることを決定致しました。なので、同盟関係を解除したいんですけど。」




「ん?いつの間にそれほど追い詰められたんですか?」




「別に追い詰められてはないんですけど……」




 執事らしき人物がニコニコと気色悪い笑みを浮かべている。その一方でジェイムスは相当焦っているのかなんなのか、随分辿々しい。




「大丈夫ですか?」




「た、大したことないですよ。」




「そ、そうなんですか?」




「す、すみません。ちょっと疲れてて。」




「じゃあ、もう一度聞きますが、一体どうして植民地化を?」




「建造物へのダメージやらが大きすぎて戦闘続行を断念したんですよ、ハハッ。」




「でも人口とかは減ってないんですよね?」




「て、低規模の被害だけでー『ジェイムス様、いい加減に。』」




 ジェイムスの言葉を執事が遮る。




「あの。私はジェイムス王の話を聞きたいんですけど。」




「王は喋りたくないと申しております。」




「嘘ですよね?それ?」




「嘘ではありません。そうですよね、ジェイムス王?」




「は、はい!!」




 ジェイムスは何かに脅されているような素振りで力強く頷く。




「じゃあ軍の救援は?」




「必要ないです。」




「じゃあ帰れと?」




「はい。」




 なんだこいつ?一体何様だと思ってんだ?救援要請を寄越しといて、要らないってひどすぎるだろ。こうなったらもう二度と助けてやらねぇ。




「了解しました。では私は帰ります。二度と会うことはないでしょう!」




 そう言い放つと、俺は急いでゲルシスが待つ王城前へと向かう。




「あ!エルナ様!整列終わったわよ!」




「ゲルシス、申し訳ないけど今から帰宅するわよ。」




「えっなぜ?」




「この国、もう既にやられてるわ。」

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