第37話

 高野は、俺を追いかけて死んだ。


「クソっ、お前はあっちで幸せになれただろうに!」


 転生せずに本当に死んでしまったらどうしてたんだよ。天国には俺はいないぞ!


 命を投げ出すなっていつも言ってたのに。なんで俺なんかを……別に取り柄も特にないのに。


 クソっ、頭がモヤモヤする。こうなったら本人に聞いてみればいい。


「グリュネ、入ってきて頂戴。」


「エルナ、大丈夫?」


 グリュネが心配そうな顔をして部屋に入る。


「ええ、まあ大丈夫なはずだわ。」


「なら良かったわ」


「で、なんだけど。今アルビオンってどこにいるかな?」


***


 俺がアルビオンの別荘に到着した時、アルビオンは優雅にランチを楽しんでいた。あのすかした食べ方はまさに高野だ。


「アルビオン様、ご一緒しても?」


「いいよ。そろそろ来ると思ってたし。」


「流石ですね。」


 俺はアルビオンの隣に座ると、すぐに本題に入った。


「お前、高野だよな?」


「そうですよ?」


「そっか。じゃあなんで死んだ?」


「あなたにもう一度会いたかったからですよ?」


「なんでだ?」


「先輩それを聞きます?」

「ふざけんな!」


「俺は真剣に聞いてるんだよ。なんで自殺なんかしたんだって。」


「……そこまで知ってるならしょうがないですね。」


 その後高野は自分自身の葛藤を淡々と話し始めた。俺への恋心、幻滅していく世界、皆軽薄に見える人々。まるで毎日ループしてるみたいな感覚だと話した。


「まるで牢獄ですよ。一生その苦悩から逃げられない無限の牢獄。抜け出すには死しかなかったんですよ。」


「だが……俺は生きろと……」


「生きろって言われて生きれる程人生簡単じゃないんですよ!」


 俺は高野から初めて本気の怒りを感じた。いつも笑っていて、俺のことを尊敬してた後輩はどこにもいない。目の前の女はかつての俺の恋した高野ではない。ただの一人の弱い女性だ。


「悪かった、でも生きてて欲しかったんだ」


「なんでですか!私は死んだ方が良かったですよ!」


「違うんだよ……お前が死ぬことなんて望んでなかった……好きな人がなんて」


「……」


「最後に一つ聞かせてくれ。」


「はい。」


「俺が憎いか?」


「憎い?」


 俺は「生きろ」という呪いを高野にかけてしまった。元々俺が何も言わなければそれほど苦労しなかっただろう。


 高野は俺を憎んでてもおかしくない。


「そんな訳ないじゃないですか。」


「ッー」


「私は先輩の言葉に苦しめられたけど、憎みはしないわ。そもそも私が自殺したのは先輩に会うためだし」


「ッー!」


 もうあとの祭りってか。ハハッ。高野らしい。そうだな、もはや気にしてももう遅いか。どっちも死んでるし。


 今更過去をピーピー言っても意味ないもんな。ハッ。


「なぁ高野。賭けをしないか?」


「賭けですか?」


「ああ。もしお前が王選に勝ったら、自殺の件を許す上に、一つ願いをなんでも聞いてやろう。逆に俺が勝ったら、俺の願い1つを聞いてくれるか?」


「ハハッ、何それ。でも先輩らしい。わかりました、受けて立ちましょう!」


「決まりだな。過去のことを一旦置いといて、まずは王選だ。王選が終わったらお互いゆっくり話そうな。」


「そうですね。」


「じゃあこれで宣戦布告ってことで、ボコされる準備をしときな!」


「ハハッ、どっちのセリフですかね、それ」


「まあ、結果は見てのお楽しみだ。じゃあ俺はお暇させてもらうぜ。」


「わかりました。また会いましょう。」


「ああ。」


 俺はそう言って高野の別荘を去った。

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