第36話
「お疲れ様でした。次のセッションはーまた来週ですね。ではお元気で!」
やっと帰れる。一時間もこんな窮屈な所で過ごしてられるか。
先輩が死んでから1週間が経った。私は先輩の死を受け入れられなくてPTSD?って診断された。おかげで毎週クソみたいなセラピーセッションを受けることになったよ。
でも先輩の死は未だに受け入れられてない。むしろ現実からずっと逃げてる。どこかで先輩は生きてるんだって自分に言い聞かせてるけど……
先輩は本当に死んじゃったんだ。私を救って死んだんだ。
いけない。また涙が出てきちゃった。
それにしても先輩の死はニュースやらで大きく取り上げられた。『知事、秘書を救って殺害された』なんつー見出しで。大物タレントやらがツブッターで『惜しい人を失いました』なんつって。お前ら先輩の何が分かるんだよ。
もはや生気が感じられない。生きてる実感すらない。1週間前まではあんなに幸せだったのに……
「あれ?なんで私こんな所に居るの?」
気づいたら私はビルの屋上までやってきていた。
そうか、私は死のうとしてるんだ。先輩の所へ行こうとしてるんだ。じゃあこの一歩を踏み出せばいいんだ。
「先輩……私も今からそっちに……」
もういいんじゃないだろうか。私なりに結構頑張ったし。先輩も褒めてくれるでしょ?
そして私は身を空中に投げ出した。
***
「やってしまったよー!」
「全部お前のせいだぞ!」
ん?うるさいな。私はもう死んでーって、え?
目を覚ますと私は雲の楽園?天国のような場所にいた。つまり、私はやっぱり死んだということか。
やっと、やっと先輩に会える。
「おい!お前何してくれてるんだよ!」
「ぇえ?」
目の前にいるのはなんか、神様?みたいな人。めっちゃ怒ってるけどなんでだろう。
「常和といい、不慮の死が多すぎる!過労死させる気か。そして死神や!そもそも常和を誤殺しなきゃこんな面倒なことになってなかったんだよ!」
「神様、ごめんなさい。」
死神?が申し訳なさそうに土下座している。浮遊している骸骨が土下座をする姿はちょっぴりシュールで面白かった。
って、そんな場合じゃない。
「私、今どこにいるんですか?」
「うーん、神界。まあ死後の世界かな。」
「そ、そうなんですか。」
「お前、自殺とかマジでよしてくれ。死ぬ運命ではない人が死ぬと、神界はその尻拭いをしないといけないんだよ!」
「まあそもそもは死神が常和を誤殺したのが悪いんだがな。」
え?先輩を誤殺?
「あーそっか。言っていなかったな。常和はお前のように死ぬべき運命ではなかったんだよ。」
「え?」
「正確には、違う『常和藍』が死ぬべきだったんだよ。彼は生きる運命であったのさ。」
「は?つまりお前らが殺したってこと?」
「そうだ。」
「……」
「悪かった。お前の大切な人を殺して悪かった。」
「死人は帰って来ないのよ!」
「分かってる。だから常和は転生させた。」
「転生?」
「ああ。俺たちのミスの尻拭いってやつだ。」
「い、生きてるのね。」
「ああ。」
「じゃあ先輩に会わせて!」
「え?」
「私も転生させて!」
「それはできないーって言いたいところだが、お前が死んだのは俺たちの責任でもある。」
「そう。常和を誤殺していなければお前は自殺しなかった。」
「だからお詫び?として転生させてやるよ。」
「本当ですか!」
「ああ。神に二言はない。」
「なら一つ、いや二つお願いしていい?」
「なんだね」
「私の記憶をそのままにしておくのと、転生先での先輩の情報を教えて欲しいの」
「記憶はいいだろう。だが、常和については教えられない。プライバシーだからな。まあ代わりと言ってはなんだが、あっちの世界では出来るだけ良い環境に転生させてやるよ。」
「ありがとうございます!」
「以上か?」
「ええ。」
「ならさっさと転生させちゃうね。」
「え?いきなりですか?」
「うん。最高神様にバレたら面倒だしね。」
神様が携帯端末らしきものをいじると、私の体が徐々に光の粒子となって消えていく。これが転生ってことなのか?
みるみる私の体は消えていき、いよいよ残ったのは頭だけだった。いよいよ先輩に会えることに喜びを隠せない。
「あ、高野。」
「何か?」
「一つ常和を見つける時に一つヒントをあげるよ。」
「え、本当ですか?」
「ああ。常和は、お前のプロポーズを断った奴だ!」
「ちょーそれどういうー」
神様の言葉の真意を聞く前に、私の意識は暗転してしまった。
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