第21話
「エルナッ!出てきなさい!」
グリュネの声が元カーティス石鹸商店ビルにけたたましく響く。
「エルナ様という方は存じ上げません。」
タクトは冷静に対応するものの、実際はかなり焦っている。フラエルの初期メンバーしか知らないはずのエルナの存在がなぜか外部、よりによってグリュネに漏れているのだ。
エルナについては厳重な情報統制や外出制限を半ば強制的に行っていたのにも関わらず情報が外部に漏れたとは考えられない。
不本意ながらも、タクトは裏切り者の存在に気づいていたのだった。
(エルナ、絶対に来ないでくれ!)
しかしタクトの願いはことごとく打ち破られ、俺はグリュネと対面を果たすことになったのだった。
アレクサンダーを引き連れて本社に到着した俺たちは、ついに宿敵グリュネと生憎の再会を果たした。
「あらあら、そんな見窄らしい格好をして。これだからエルナみたいな底辺貴族は……」
「グリュネ様、奴は今は平民ですよ!貴族ですらないただのゴミですぞ!」
「そうだったわね!」
ゼスとグリュネが愉快そうに笑う。今すぐ殴ってやりたいところだが、手を出したらダメだ。現在平民の俺が貴族に手を出したら今度こそ死刑にされかねない。
「お久しぶりです、グリュネ様。私に何か御用でしょうか?」
「あなた、自分自身が指名手配犯だって知らない訳?教養が足りないわね!」
「指名手配犯だと何か悪いのでしょうか?」
「あなたは犯罪者よ!そして犯罪者が居るべき場所は刑務所、いや、死ぬべきだわ!」
「グリュネ様の言う通りですぞ!お前はしかも脱獄囚、尚更ここに居てはならない!」
「グリュネ様、あなたはいつも私のことを教養が足りないだか、ゴミだとか罵りますが、私はあなたに何かしたのでしょうか?」
「それよ。あなたのその反抗的な態度がずーっと気に入らなかった!爵位が上のはずの私に抗って、あなたの存在が目障りなんだよ!」
要するに、俺が悪政に反対し続けたからキレている訳か。グリュネが私欲のためにしようとした不当な増税などを妨害したのに、正しいことをしたのに、キレられる筋合いは無い。
「そんなの逆恨みも甚だしいじゃないですか!私は正しいことをしただけなのに!」
「もう、埒が明かないわ。まあ今日ここに来たのは争うためじゃないから。」
争うために来た訳じゃない?ならなんでここに?
「私がわざわざやって来たのは、あなたに宣戦布告するためだわ。」
「宣戦布告?」
「そうよ。私たちはあなたを正式に起訴したのよ。」
「起訴?私が何かやったかしら?」
「ハハハッ、とぼけるのもいい加減にしてほしいですな。脱獄、恐喝、脅迫、拷問、暴行。罪状は数え切れない程ありますぞ?」
「ッー!?」
脱獄はともかく、どうやって恐喝、脅迫、暴行などがバレてるんだ?このことを知っているのは俺とアレクサンダーとフランシスと李のみ。だとしたらこの中に裏切り者がー
「気づいたみたいね、裏切り者の正体に。」
「もう答え合わせをしてもいい頃合いだと思いますぞ?」
「そうかもね。じゃあフランシス、帰りましょう?」
「はーい!」
俺の最大の理解者であると共に最強の協力者であるフランシスが裏切り者。お姉ちゃんと言ってずっと懐いていたあの態度は嘘だったというのか?
「フランシス?う、嘘だよね?」
「ごめんね、エルナお姉ちゃん。私、やっぱり強い方に付きたいんだよね。」
「だそうよ、エルナ?」
「ついには後ろ盾まで失ったか!ッヒヒヒ!」
俺はもちろん、アレクサンダー、ルーカス、ジャニス、ベリンガム兄妹、最近仲間になったばかりの李さえもが驚愕している。もはや声も出ないレベルにまでなっていた。
「じゃあ、また来週裁判所で会いましょう!」
俺たちは立ち去るグリュネ達の背中を見守ることしか出来なかった。
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