第22話
「常和ヨ。もう三日間も籠りっぱなしじゃないカ、たまには外に出てきてくれヨ。」
「……」
フランシスの裏切りから三日間、俺は新居の自室に籠りっぱなしだった。飯はドア前まで運んできた飯をさっさと食っただけだ。人との接触は最小限に抑えた。
フランシスが裏切った。そのことを未だに整理できていない。フランシスが居ない、その穴は想像以上に大きい。彼女は頭が相当キレるが、それ以上にチームの士気を保つために大きな役割を果たしていた。
俺も何度も彼女に助けられた身の上、置いていた信頼も大きかった。その信頼がことごとく裏切られるとは思ってもいなかった。その分心のダメージが大きい。
もう、一層死のうかな。
「あーもウ!見てられないから入るゾ!」
李が思い切りドアを押し開ける。
「李!勝手に入るなッ!」
「うるさいナ!お前のこんな姿なんて見てられないゾ!」
「しょうがないだろ!フランシスに裏切られたんだぞ?」
「裏切られたか決まった訳じゃないだロ!」
「え?」
「ダブルスパイ、中国の諜報員がよくやっていタ。」
「待て、どういうことだ?」
「フランシスは諜報員として、グリュネの手の内を探ったという可能性はないのカ?」
「そんなの、空虚な理想論だろ!」
「それがどうか確認する術がお前にはあるじゃないカ?」
「俺のスキルか!」
「そうだヨ!何忘れてるんだヨ!」
俺は李に言われるがままにスキルを発動させ、フランシスの恋愛相関図を引っ張り出す。見てみると、俺とフランシスは未だに仲間という関係と表示されていた。
「これは!?」
「なんと表示されてるんダ?」
「仲間だってよ……」
「ほラ!言っただろうヨ!」
仲間、それほど欲していた言葉は無かっただろう。心にかかっていた靄が晴れていくのを感じる。裏切られていない。そう自分に言い聞かせると、力が湧いてくる。
「俺、元気が出てきたかも!」
「だロ!」
「俺、頑張る!」
「じゃあ、まず裁判への準備をしないといけないナ。」
裁判。本当に忘れていた。俺は裁判にかけられて、最悪死刑になる可能性があるんだった。しかもフランシスがグリュネに俺がやったことをバラしちゃった以上、罪状の完全否定は難しそうだ。
「罪状の否定は難しそうだよナ。」
「確かにそうだな。そうなると、論点をずらすしかないかな。」
「論点をずらス?」
「要するに、俺の罪状よりもっとインパクトの強い罪状をグリュネに被せれば論点をずらせる訳さ。」
「なるほど、そうすれば非の矛先はグリュネ達に向く訳カ。悪徳だけはあるナ!」
「だけとはなんだ!だけとは!」
「だが、お前の罪状は結構多いゾ?それを全て上書きできるほどのネタがあるのカ?」
「それを探すのが俺のスキルの役割さ。」
「なるほド!じゃあ早速やってみヨ!」
敵、グリュネは宣戦布告をした以上、俺に何かをされるとと思って守りを固めてるだろう。対面で話すことすらも難しいに決まってる。だとしたら、その敵さんの取り巻きから攻めることが最も有効だろう。
なら攻める取り巻きはただ一人、ゼス一択だろうな。奴なら接触しやすそうだし、爵位もグリュネと同じ。奴は明らかに何かを隠してそうだし、有効的に利用できそうだな。という訳で、スキル『恋愛相関図』発動!
ゼス・ブラックフィールド。47歳、妻3人、子供4人という日本では考えられない家族構成をしている。しかも、彼は妻帯者のくせに何人もの不倫相手がいる。しかもしかも、彼は平民出身で、爵位は妻のおこぼれみたいなものだ。
典型的な不倫男かと思いきや、ホログラムには明らかにおかしい関係が示されている。
「暗殺?」
相関図には、無数の女性男性がゼスによって殺害されたと表示されている。おかしいと思っていたんだ。ゼスは平民出身のくせに、貴族と結婚できている。これはすなわち、このゼスに何か特技があることを意味する。
そして第二の違和感。グリュネには目立ったボディーガードがいない。底辺貴族の俺でさえボディーガードがいるのに俺より爵位の高いグリュネに護衛がいない訳ない。だがしかし、グリュネの隣には常にゼスのみがいる。これはすなわち、ゼスが護衛兼暗殺者を務めていたということを意味する。
「李、ゼスって今どこに居るか分かるか?」
「ゼスの位置カ?監視しているアレクサンダーによると、昨日から風俗に引き篭もったままらいガ。一体ゼスがどうしたっていうんダ?」
「李、聞いて驚け。あの男、ゼスは暗殺者だ……」
『その通り。』
頭上から低い、威圧的な声がする。上を向くと中年の太った男、ゼスが天井に張り付いていた。
「ちょっ、いつから!?」
『あなた達には関係無いよッ!死ぬんだし!』
そう言うと、ゼスは俺を目がけて勢い良く飛び出す。その片手には毒が明らかに塗られた短剣が握られている。
なるほど、そうだったのか。第三の違和感がやっと解けた。なぜグリュネは裁判という公平の場を設けたのだろうか。もし俺がそれほどまでに目障りなら誘拐でもして殺せばいい話なのに。
その答えが今解けた。単純に殺せないからだ。元王国騎士団団長アレクサンダーが護衛している俺を暗殺するのは容易くないが、それはもしアレクサンダーが近くに居ればの話だ。今のようにアレクサンダー不在の場合、俺は無防備。
俺を無防備にするために裁判という公平な場をわざと設け、俺の守りを剥がした訳か。緩急をつけて俺を削る。グリュネのことを口だけだと思ってた。クソ、舐めすぎてたよ!
だが、奴らにも誤算がもちろんある。俺のことを無防備だと思っているだろうが、それは全く以って間違っている。なぜならー
「常和、俺の後ろに隠れロ!」
李は俺を庇うように飛び出し、ゼスを大剣で吹き飛ばす。
『ッー!?』
ゼスは李の大剣に吹き飛ばされ、部屋の壁に叩きつけられる。奴らの誤算、それは俺には李という強力な護衛がいるってことだ。
「いざ、尋常ニ!」
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