第20話
「これが今日からの新居ですか。」
「一日で買ったにしては悪くないんじゃない?」
「いえいえ、最高ですよ。」
カーティスの会社を乗っ取ってから三日後、俺たちはついに新居を買うことにした。フランシスの家にずっと居座るのも気が引けるし、そろそろ家が欲しかったんだよな。
カーティス石鹸会社改めフラエルは営業方針を大きく転換させ、元々の上流層向けの高級石鹸の販売から中、低所得者向けの石鹸販売を行うことにした。最初の数日間はみんな混乱して仕事が全く進まなかったが、フランシスと李さんの奮闘でおとといには平常運行していた。
まあ、巨大な企業を丸ごと一つ手に入れた訳なんで、元々無かった資金が爆増して、家を買えるくらいまでにはなった訳だ。しかも営業方針を転換した結果、利益がものすごい勢いで増えているらしく、フラエルが石鹸界の頂点に君臨する日も近いかもしれない。
運営も安定したし、売上も順調。転生してからずっと忙しい日々が続いていたけど、やっと休暇を取れた。この1日を使って、まあ家を買った訳なのだが。
「エルナお姉ちゃん!」
なぜか買った家がフランシスの隣家なんだよな。まあ決して嫌ではないからいいんだけれども、奇跡的だな。これが腐れ縁って奴なのかな。
「どうしたの、フランシス?」
「聞いて驚いて!今日の売上、過去最高らしいわよ!」
「計画通りね。やっと休暇を得られたし、今日は仕事から一旦離れることにするわ。」
「色々大変だったもんねー。じゃあ私は二人のお邪魔虫だろうし、退散することにします!」
「私たちはそんな関係じゃー」
台詞を言い終える前に、フランシスは姿を消していた。なんてすばしっこい奴なんだろうか。とにかく、俺は貴重な休暇を絶対満喫するんだ。
気を取り直して新居の玄関に鍵を挿すと、なぜか周りに妙な人だかりが出来ている。皆俺を指差し、何かコソコソと言っている。
「お母さん、あれって『フラエルの魔女』?」
「テイ坊、しっ!見ちゃダメよ!」
子供が俺のことを指差し、フラエルの魔女?と呼ぶ。フラエルの魔女ってなんだよ。俺は人間だし、別に非人道的なことはーやっていなくはないかもしれない。
よく考えて見れば、脅迫や拷問、色んな犯罪を犯しているのだが、バレなければ犯罪じゃない。大丈夫大丈夫。
ということで、周りの目なんか気にせず、俺は今日という日を楽しむことに集中すればいいんだ。俺は鍵を勢いよく回し、新居の扉を開ける。新居の中はどうなっているんだろうかな?
期待を胸に新居へと入ると、そこには外見からは考えられない程の、広大な空間が広がっていた。しかも家具まで備え付けという超優良物件。余計な手間も必要ないし、本当に楽で助かる。
それにしても広いな。家具も所々金箔が散りばめられてるし、高級感溢れる家だ。知事のくせにワンルームマンションに住んでいた時期とはまるで違う。
「かなりの金額を支払っただけあるわね。」
「そうですね。」
「まあ、とりあえず各自の部屋を見てみましょう。」
「えっ?二人で一つの部屋じゃないんですか?」
「はぁ!?」
「いや、エルナ様一人じゃあ襲撃の際危ないかと!」
「アレクサンダー、鼻血出てるわよ。」
こんな下心丸出しの野郎は放っておくとして、俺は自分の部屋でくつろぐとしよう。折角の休暇を台無しにされてたまるものか。
俺は空いてる寝室に駆け込み、急いでドアを閉めた。これで邪魔者はいなくなっただろう。さあ久しぶりの一人時間を楽しむとしよう。
フカフカのベッドに寝転がり、とりあえずぼーっとする。部屋の静けさが逆に心地いい。今日一日は寝て過ごそう。そう思った矢先、アレクサンダーがドアをノックする。
平穏は俺には来ないのかーと呆れながらもドアを開けると、深刻な顔をしたアレクサンダーがそこに居た。さっきまでリラックスしてたのに、一体何事だ?
「エルナ様、ルーカスからの情報なんですけど、グリュネがフラエル本社まで押しかけています!」
「グリュネが!?」
「はい、そうです。」
「居場所がバレたというの?」
「そのようです。」
グリュネに捕まるのを防ぐために出来るだけ身を表舞台に出さないようにしていたのだが、一体どうやって俺の居場所がバレたんだ?
俺は目立った行動は特にとっていないはずだし、出来るだけ顔をみられないように変装をしていたはずだ。しかも、懸賞金を狙った輩も上手く避けたはずだ。だとしたらまさかー
「多分ですが、フラエル本社に裏切り者がいます!」
裏切り者。俺の存在を知っているのはフラエルの初期面子のみだ。だとしたら、その中の誰かが、俺の居場所をバラしたということになる。
「裏切り者については後で対処するわ。それよりは、まずグリュネをなんとかしないと。」
裏切り者は絶対に炙り出すが、それよりも今対処すべきはグリュネ自身だ。何をしでかすか分からないグリュネは放っておけない。裏切り者はまた後で、ゆっくり考えればいい。
「アレクサンダー、今すぐ本社へと向かうわよ。準備して!」
「もう既に出来ております。」
「じゃあ一刻も早く行くわよ!」
俺たちは、靴もきちんと履けてない状態で新居を飛び出して行ったのだった。
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