第9話

 フラエルについての話がまとまった後、俺たちはフランシスの家に泊めてもらえた。野宿だけは、野宿だけはどうにか避けられて本当に良かった……


 しかし問題は、なぜかアレクサンダーと同室ということだ。フランシスが俺を部屋に案内した時も、楽しんでねとか意味深なこと言ってたし。俺とアレクサンダーはそんな関係じゃねえから!


「エルナ様、暑くないですか?」


「い、いや、別に暑くもないわよ……」


 アレクサンダーがあからさまに顔を赤くしてこちらを見ている。興奮してるな。正直言って中々気色悪い。こんな歪んだ愛は男には重過ぎる。


「い、いやー暑いなー」


 アレクサンダーは暑そうに、シャツのボタンを外していく。そしてシャツの隙間から見える胸筋ッ!えげつない。こんな筋肉なら女にはクリティカルヒットだろうな。まあ、俺は男だから関係ないし、なんとも思わないからな。ていうか、ちょっとムカついてきたわ。何カッコつけてんだよ。ここはちょっとキツめに言わないといけないな。


「全然暑くないからボタンをしなさい。」


「はい。」


 しょんぼりした様子でアレクサンダーはボタンを留めていく。


「そういえば、地図ってないかしら?」


「地図、ですか?」


「そうそう。」


 ずっと気がかりだったのが、地理関係だ。俺がどこに居るのか、ここがなんていう国なのか。そういう基礎知識がない状態は流石に危ないような気がしてならない。そろそろアレクサンダーなしで行動したいからな。


「ありますよ。」


 どこから出したのか、長身なアレクサンダーを覆い尽くすほど大きな地図を床に広げる。


「デカッ……」


「しかしエルナ様、何の為に地図が居るんですか?」


「いや、この国の地理が気になって……」


「地図を読めないエルナ様がですか?」


「……ええ。そろそろ読めるようになりたいなーと思って。」

「なるほど!素晴らしい心構えだと思います!」


「でも、教えてくれる人がいないから困っているのよ。」


「なら、僕が教えますよ!」


 好きな人へのアピールチャンスを逃すまいと、アレクサンダーが意気込んで提案してくれる。まあこちらとしてもありがたいからいいんだけど。せっかくだし、アレクサンダー先生に地理を教わってみようじゃないか。


「お願いするわ。」


「任せてください!では、この地図を一旦眺めてください。」


 さっきからずっと地図を眺めてるんだけど、やっぱりピンと来ないんだよな。というか、なんで俺は異世界の文字を読めてるんだ?ひらがなや漢字、カタカナにも全く似つかない形をしているのに、自然と文字は読める。


「アレクサンダー、全く何も解らないんだけど。」


「そうですよね。まず大前提として、この地図はこの国、レグルス王国のものです。で、僕たちが居るのが、国の中心に位置する王都レグルスです。」


 おいおい、さらっと大事な情報を話してるじゃないか。どうやら俺はレグルス王国という国の王都に住んでいるらしい。それにしても、このレグルス王国ってどう見てもアフリカ大陸なんだよな。


「なるほど。ここが王都ってことね。」

 俺は地図の中心部を指差しながら確認した。


「そうです、その通りです!」


「じゃあ、王都の中で私達はどこに居るのかしら?」


「それはですね、王都の中心部付近です。貴族など、上流階級の方々の居住区は王都の中心部に集中しがちなんです。」


「なるほど。」


 つまり、一応俺たちは上流階級に入るということか。あんなボロ家に住んでいても上流階級なんて、王都外の人々はどんな生活をしてるんだろうか。想像しただけで恐ろしいな。


「で、王都外の地方は、極端な田舎って感じですね。もちろん地方にも発展した都市はありますが、金や情報などが集まるのは王都ですね。」


 すなわち、王都を占めれば実質的な王になれるということだな。

「じゃあアレクサンダー、貴族と平民が両方住んでいる居住区はどこかしら?」


「それなら、王都南部ですかね。あそこは商店街ですからね、貴族平民関わらずたくさんの人が南部付近に住んでいます。」


 フラエルの石鹸は安価で、高品質が売り。つまり、ボンボンが少ない場所に店を置くほうが必然的に需要が上がるってことだ。貴族と言っても俺たちのような金欠貴族もいるだろうし、低級貴族もこの石鹸を求めると思うし。だったら南部に店を置くことでほぼ決定だろうな。売れ行きが良ければ、徐々に店舗を増やせばいいだけだし。


「ふあぁー」

 おっと、思わずあくびが出てしまう。国会なら厳重注意されちゃうな。転生して1日目のくせして色々なことがあり過ぎたからな、そりゃ疲れも溜まるわ。


「そりゃあ眠いですよね。もう寝ましょうか。」


 そうして、俺たちは寝ることにしたのだが、アレクサンダーが同じベッドで寝ようと言い出しててもうざかった。ちょっとキツめのことを言ったらすぐにはけたからまあ許してやろう。


 それにしても、本当にスッキリ寝れた。前世では仕事漬けだったからな、久しぶりにちゃんとした睡眠をとった気がする。本当ならもう少しベッドでコロコロ、ゆとりの時間を楽しみたかったものの、そんな平和の時間はフランシスによって終わりを迎えることとなる。


「エルナ姉ちゃんー!いよいよフラエルを本格的に設立するわよ!」


 フランシスが早朝に出るとは思えない程元気な声で俺たちを起こす。最初の根暗のイメージはもう無く、陽キャの少女というイメージしかない。


「フランシス、朝から何をやるの?」


 未だ寝ぼけながらも、フランシスに訊いてみる。昨日一通り決めたはずなんだけどな、何かやり残したことあるっけ?


「そりゃあ、人材の確保よ!」


 大変そうな仕事に憂鬱になりながらも、楽しくなってきた転生生活に思わず口角が上がる。今日も1日、働きがいがありそうだな。

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