第10話
人材。確かにそうだ。俺とフランシスだけで会社は営めない。手や足となる、優秀な部下が絶対に必要となってくるが……俺にそんな人脈はほとんどない。
フランシスに訊いてみた所、彼女は有望株が数人思い当たるそうなんだよな。人材発掘をフランシスだけに任せるのも後ろめたいしな。『Kindeed』みたいな人材検索サイトがあったらーってあるじゃん!
そういえばそうだった。俺には『人物紹介』というスキルがあったじゃないか。すなわち、求人募集を掲示板に載せて、応募者を片っ端から『人物紹介』で検索すれば、求人アプリ『kindeed』と同じようなことができるじゃないか!
「フランシス、やっぱり当てあったわ。任せなさい!」
「流石お姉ちゃん!でもさ、どういう分野の部下が要るの?ほら、接客とか、決算とか、色々あるじゃないの。」
いい指摘だ。正味、接客や製品の製造は猿でもできるが、決算や人材の管理などは優秀な面子がいないと成立しない。俺の場合は超優秀な高野が資金などの管理をしていたから一人で成立していた部分が大きい。
「特に管理職かな。管理職が優秀じゃないと会社は回らないからね。」
「でも優秀な人なんてどこにでもいる訳じゃないのよ。かなりの希少種じゃないの?」
「え?採用試験をすればある程度の線引きはできるんじゃない?」
「さ、採用試験?何じゃそりゃ?」
そうか、この世界には、面接や採用試験といった概念はないのか。なら、未発掘の優秀な人材がゴロゴロ居るかもしれないということか。
「要するに知識を試す試験のことよ。」
「あー、入学試験みたいな?」
「そうそう。それで応募者の実力はある程度分かるから線引きにはちょうどいいのよ。」
「じゃあ、求人募集を掲示板に載せとくわね。」
「いや、大丈夫だわ。」
さっきは確かに掲示板に求人情報を載せようかと思ったけど、『人物紹介』で優秀な人材を検索できる気がしてきたんだよな。
心の中でスキルを念じると、ホログラムが浮き上がる。最近気づいたのだが、このホログラムはどうやら他の人には見えないみたいで、便利なものだ。コソコソ隠れてスキルを発動させなくていいと思うと気がかなり楽だな。
じゃあ、早速検索してみようか。えっと、『この近くに住んでいる、優秀だけど金欠な人』っと。ポチッと検索ボタンを押してみると、7人の顔写真が表示される。
まず最初の三人は、俺とアレクサンダーとフランシスーって確かに条件に合うけど求めてるのはこういうのじゃないんだよな。まあそれはそれとして、他の四人は誰なんだ?
えっと、一人目はジャニス・パーカー。外見は赤髪、褐色の肌で、ちょっとふっくらしている。フランシスのメイドで、どうやら会計決算に長けているそうだ。身近にいるし、勧誘も容易そうだな。二人目はルーカス・ウィリス。こいつもフランシスの使用人らしいな。得意分野は人事管理。こいつもジャニスと同様にちょろそうだ。
で、残りの二人はというと、双子の兄妹、アウフとタクトのベリンガム兄妹だ。この二人はフランシス直属ではなく、単に近くに住んでいるというだけらしい。そんな二人は営業の天才と称される程の秀才だそうだ。
「あの、エルナお姉ちゃん、何空中をちょんちょんしてるの?」
あ、そういえばホログラムは見えなくても俺の動きは見えるのか。不自然に思われる前にホログラムを閉じる。
「え、ああ、何でもないわ。有望株を考えてたのよ、おかげで思いついたわ。」
「そうなの!良かったわ!」
「あ、ちなみにフランシスは誰かいい人いるの?」
「やっぱりルーカスとジャニスかしら。あの二人はものすごく頭がいいからね。」
流石フランシスと言うべきか、『人物紹介』と同じ結論に達していた。フランシスは紛れも無く優秀ってことだな。
「じゃあ、その二人の勧誘は任せるわ。私は他に有望株が居るからそっちの方を勧誘してくるわ。」
「分かったわ。でも一応指名手配されているからくれぐれも遠くまで行っちゃだめだよ!」
「もちろんだわ。アレクサンダーも連れてくし。そういえば服ってもらえるかしら?」
「いいわよ。ドレスじゃないけど許してね。」
そう言ってフランシスは俺に麻で出来た半袖の服とボロボロの長袖のスボンを渡す。ちょっと汚いけどまあ、我慢すればどうにかなるか。
早着替えを済ますとアレクサンダーを引き連れて早速ベリンガム兄妹の元へと向かう。確かフランシスの家のすぐ隣にあったと思ったんだが、家らしき物は全くないな。
あるのは、竪穴式のテントらしきものくらいだ。もしかして、あの兄妹はこのテントらしき場所に住んでいるのか?
テントの中を覗いてみると、アジア系の男女が仲良く話していた。『人物紹介』で表示された顔と同じだが、なぜか二人共異常に痩せこけている。
「あの、エルナ様。なぜこんな平民のところへ?」
後ろからアレクサンダーが不思議そうに訊く。そりゃあそうだよな、こんな誰かも分からない兄妹なんて知らないわな。
「それはこの子たちが優秀だからよ。」
「それが本当だと願いますよ。」
アレクサンダーが納得したと同時に、俺は竪穴内の二人に話しかけてみる。
「ねえねえ、君たちってベリンガム兄妹?」
「そうだけど?何か用か?」
兄の方が面倒臭そうに答えてくれる。明らかに不機嫌だな。
「実は私たち、会社を建てるんだけども、従業員が足りなくて、成立しないんですよね。なので力を貸していただきたいと思いまして。」
「えっ!お仕事!お兄ちゃん、やっとお仕事だよ!」
妹の方は嬉しそうにぴょんぴょん飛び回っている。仕事の勧誘一つでこれほど騒ぐんだから、どうやら本当に経済的にやばかったらしいな。
「で、ですね、あなた方の力をー」
「断る。」
「えっ?今なんと?」
「その仕事の話、断る。」
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