第25話
「待ちなさいアレクサンダー!フランシスは私の証人よ!勝手に取らないでもらえる!」とグリュネが訴える。
「裁判長もそれをよくご存知の上で了承されましたよ?」グリュネの訴えに対してアレクサンダーは冷静に応じる。
「アレクサンダーの言う通り、フランシスの証人召喚を認めます。異論は認めません。」
アレクサンダーは「よしっ」と小さくガッツポーズをする。
「では証人フランシス、証言をお願いします。」
「はい、裁判長。エルナ被告への罪状は全て冤罪でございます。」
「ッー!フランシス、何を?」
「強い方につくと言いませんでしたっけ?」
「なら私につくーってもしかして?」
「エルナお姉ちゃんの方が強いに決まってるじゃん。心も、頭も。」
「生意気な……」
「喧嘩はいい加減にして、証言をお願いします!」
火花が散っているグリュネとフランシスを鎮めるように裁判長は宣言する。裁判は論理的な口論の場だ。馬鹿馬鹿しい喧嘩をする場所じゃない。
双方ともそれを理解したようで、二人共ポーカーフェイスに早変わりしている。やっぱり、貴族は伊達じゃないな。
「では、証人フランシス、その冤罪の証拠はあるんですか?」と裁判長が訊く。
そう、証拠。これがないと空虚の理想論に過ぎない。どんな証拠を掴んできてるか……頼むぞ、フランシス!
「裁判長、ボイスエングレーバーという魔道具をご存知ですか?」
「ええ、会話などの音を録音できる魔道具ですよね。」
「その通りです。私の手に握られているボイスエングレーバーには、原告グリュネとゼスの間での会話の録音がされています。」
「その録音内容はどのようなものなのですか?」
「内容を説明するより、実際に録音を聞く方が早いでしょう。」
フランシスが魔道具のボタンを押すと、「ザザザッ」という砂嵐の後に音声が流れる。
『エルナとの裁判どうかしら?』
『グリュネ様なら余裕でしょう!こちらにはもうフランシスもいるんですし。』
『そうね。フランシスが居ればもっと罪を被せられるものね。』
『今まで被せてきた罪状はいくつでしたっけ?』
『脅迫、脱獄、傷害とかかしら?あ、あと殺人も追加されるわね。』
『そうでしたぞい!ハハアッ!』
ゼスが高笑いし始めると同時に録音は終わる。
「こ、これは……」
「裁判長、これは偽物です!私がこのようなことをするはずー」
「異議ありです!」
「はいアレクサンダー。」
「ボイスエングレーバーで録音された音声は加工など不可能です。つまり、この録音は純正であるということです。」
「確かにボイスエングレーバーの録音の加工は聞いたことありませんね。分かりました、異議を認めます。」
「ち、違うのよ!これはフランシスに脅されて……」
「証人フランシス、これに対しては?」
「もし私がグリュネ様を脅したとしたら、そもそも裁判は起こっていません。彼女の主張は非合理的です。」
「ッー!」
ものすごい勢いでフランシスとアレクサンダーはグリュネの主張を砕いていく。言い訳をする間もなく、グリュネは追い詰められていたのである。
どうしてこうなったのか。後に聞いた話なのだが、フランシスとアレクサンダーはあらかじめグリュネとの全面戦争を予定していて、それに備えるために長い間かけて作戦を練っていたらしい。
グリュネのせいでいつも隠れながら過ごさないといけない俺を想ってしてくれたことなんだけども、ダブルスパイ作戦はやっぱり心臓に悪い。アレクサンダーをあまり見かけなかったのは潜入したフランシスと打ち合わせをしていたからなのか。
こんな大層な計画を二人で完璧にやり遂げてしまうとは、流石我が社の右腕達。やっぱり頼りになるな。
「この証拠を有効とみなし、罪状をエルナ様への脅迫、脱獄、傷害、殺人未遂からグリュネ様の冤罪を罪状へと変更いたします。」
「ありがとうございます。」
「ではグリュネ、この録音について何かありますか?」
「……」
「どうやらないようですね。原告エルナ、何か言いたいことは?」
「一つあります。」
「どうぞ。」
「クソして寝ろ!クソビッチ!」
やっと言えた。初めてあった時馬鹿にされてから本当に言い返したかったんだよな。その鬱憤をどうにか晴らせて幸いだ。
「いい加減にしなさい。ここは裁判所です。馬を弁えて。」
「はい。」
怒られちゃったけど、まあどうでもいい。クソビッチと面と向かって言えたならもう何だっていいんだもん。思わず、口角が吊り上がってしまう。
「はぁ、まあいいです。では両方主張は以上のようなので、判決を言い渡させて頂きます。」
野次までもが静まり返り、緊張感が部屋に伝わる。
「まず、当初の被告エルナは無罪とします。」
「よし!」と叫びたい気持ちを抑え、小さくガッツポーズを決めるだけにしておく。これでまず俺は自由の身だ。じゃあ後はー
「そして、第二の被告、グリュネはー冤罪で有罪とします。」
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