第26話

「エルナ様、グリュネ様との面会の準備が整いました。」


 警備員らしき男が個室に案内すると、そこには手錠がしっかりとされたグリュネが座っていた。


「警備員さん、二人で話させてもらえるかしら?」


「分かりました。」


 警備員が個室から出たのを確認すると、グリュネは話し出す。


「あなた、なんで私を救おうとした訳?」


***


 遡ること一日前、グリュネの有罪が確定した直後。


「被告グリュネを有罪とし、禁固十年に処す!これで閉廷ー」

「異議あり!」


「エルナ殿、何か不満がございますか?」


 アレクサンダーやフランシスが「なぜ?」というような表情をこちらに向けている。


「裁判長、私は禁固十年の刑はふさわしくないと思います。」


「エルナ様、何を……」


「確かにグリュネには随分ひどいことをされたけど、禁固十年をやりすぎだわ。私は一年八ヶ月で十分だと思うわ。」


「エルナお姉ちゃん!こんな奴に慈悲をかける必要はないわ!」


「証人フランシス、今発言権があるのはエルナのみです。エルナ、話は以上ですか?」


「はい。」


「わかりました。原告が現在の罪状を不適切と考えるならば、原告の提案通り、グリュネの刑期を一年八ヶ月とする。」


 急に短くなった刑期に傍聴席はもちろん、フランシス・アレクサンダーや李も驚愕していた。しかしやっぱりグリュネ自身が最も驚いているようだ。


「ではこれにて改めて閉廷致します!」


 裁判長の宣言と共に、俺にかかっていた罪の数々は全て晴れたのだった。


***


 再び現在。俺は収容されたグリュネと面会しに刑務所へとやってきていた。


「エルナ、なぜあなたは私を救おうとしたの?」


「救おうとなんてしてないわよ。あなたのしたことにはもちろん腹が立つし、許せないわ。」


「なら何で刑期を短くした訳!」


「あなた、なんか秘密を抱えてるでしょ?」


「な、何で分かるの?」


「貴族であろう方がお金に困るはずがないんだもの。それほどまでお金に固執する理由は他にあるに決まっているでしょ。」


 グリュネは私やフランシスより貴族位が上である以上、収入もフランシスとかより高いと考えられる。フランシスでもまあまあの生活ができているんだから、グリュネがお金で困るはずがない。


 なのに狂ったように金、金と奪おうとし続けるのは明らかに非合理的だ。なら、金が要るより大きな理由があると考えられる。


「私には、夫がいるの。」


「夫!?」


「ええ。今は意識不明なんだけどね。」


 なるほど。グリュネの夫なんていう重要人物が『恋愛相関図』で表示されなかったのは意識不明だったからか。


「で、夫ヘンリーは難病になってしまって、難病を治すには王国一の医師を雇わないといけないの。しかも、長期間にね。」


「この王国一の医師は雇えなかったのか?」


「足りないのよ、お金が。王様直属の医師を一年位ずっと雇うなんて、とてもじゃないけどできないわ。」


「それで?」


「周りの貴族から力ずくでお金を徴収した訳。」


「一年でどれくらい必要なの?」


「なーに、金貨1000枚位よ。」


 金貨千枚ってことは日本円で一億円くらいってことか。フラエルの純利益が金貨二千枚だから、つまりフラエルの純利益の半分が治療には必要ということか。確かに一人では到底稼げない値段だ。


「ねぇねぇ、グリュネ。」


「何よ?」


「後どれくらいお金がいるの?」


「金貨700枚よ。」


「じゃあ、その700枚、私が払ってあげる。」


「え?」


「フラエルが大成功しちゃってさ、大儲けしちゃったの。今なら資金に余裕があるから金貨700枚位は払えるんだけど、どうかな?」


「ほ、本当なの?是非、是非お願いするわ!」


「いいわよ、でも一つ条件があるわ。」


「条件……」


「刑期が終わったら私の部下になりなさい。」


「部下?」


「ええ。私の側近としてフラエルの成長に貢献してほしいのよ。あなたの頭脳は本物だから、グリュネの力があればもっとすごい企業になると思うのよ。どうかしら?この条件を飲むかしら?」


 グリュネは少し悩むそうな素振りを見せると、「飲むわ。」と結論を出した。


「なら決定ね。刑務所で反省して、私と一緒にフラエルを王国一の会社にしましょう!:


「分かったわ。代わりに、絶対ヘンリーは助けてあげて!」


「もちろんよ!任せなさい!」


『エルナ様、そろそろお時間です。』


 ドアの隙間から顔を覗かせた警備員さんがそう言い放った。そういえばフラエルの作業効率化のミーティングが今日あったな。急いで本社に戻らないと。


「ごめんなさい、私は用事があるので帰ります。一年半後にまた迎えに来ます。」


「言ったわね!迎えに絶対に来てよね!あとヘンリーを助けてやってね!」


「はい。あいわかりました。」


 そう最後に返事をすると、俺は足早に個室を出ることにした。ドアに向かって歩く中、後ろのグリュネの方には一度も振り向かなかった。

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