第29話

「エルナお姉ちゃんー!」


「何、フランシス?」


「本当に王選に出るの?」


「え、ええ。」


「四年後じゃなくていいの?」


「ええ。」


 フランシスに王選に出ることを伝えてからずっとこの様子だ。心配されてるのか、期待されてるのか、よく分からないんだよな。


「本当に出るの?」


「そうって言ってるでしょ!どうしたのよ、そんなに心配して。」


「だって相手はあのアルビオンだよ??公爵家の坊ちゃんに求婚されたのに、それを蹴って王様になるなんて、狂ってるわ!」


 確かに。次期王と呼ばれてる男に底辺貴族である私が求婚されたんだ。本来ならYESと言うべきなんだろうけど、何を隠そう、俺は男なんだ。体は女だけど心は男。男である俺は他の男と結婚したくない!


 しかしそんなことをフランシスに言える訳もなく、必死に言い訳を考えないといけない状況なんだよな。


「残念だけど、あの人はタイプじゃないわ。」


 「タイプじゃない」と聞いて後ろのアレクサンダーがガッツポーズをしている気がするのだが、きっと気のせいだろう。


「えっ!?どこが!私なんてメロメロよ。」


「フランシスはそうかもしれないけど、私は違うの。」


「えっ!王国TOP5に入るほどのイケメンよ!」


 え?そんなしょうもないランキングあるの?


「エルナ様、ちなみに私は王国一『アレクサンダー、ごめんあとでにして。』」


 アレクサンダーの変なマウントは興味ないんだよな。


「でもエルナお姉ちゃんが決めたことに異論はないよ。争うならもちろん協力するよ!」


「ありがとう、フランシス。」


 やっぱりフランシスみたいな友達を作らないとな。いつも俺の味方になってくれる。


「じゃあ、申し訳ないけど王選の形式を教えてくれないかな?」


「分かったわ。王選の形式はすごく単純よ。全候補者の中から得票数一位だった候補が王よ。」


「なるほど。そうなると知名度がある上級貴族が有利という訳か。」


「そういうことよ。しかも不祥事を起こしちゃった私たちはその点さらに不利よ。」


 確かに、上級貴族であればあるほど知名度は高い。つまり底辺貴族である上に不祥事を起こした俺は知名度もろとも信頼も全くない訳だ。


「これはきついわね。」


「そうなのよ。」


「この王選って、被選挙権は王都住民だけなのかしら?」


「いや、王国全住民よ。まあ、王都に住んでないと投票できないだろうけどね。」


 フランシスによると、選挙は直接行われるそうで、わざわざ王都に出向かなければ投票すらさせてもらえないらしい。


 もちろん地方に住む貧困層の皆さんには王都に出向く余裕はなく、王選は無縁なものらしい。


「ちなみに地方の住民と王都の住民どちらが多いのかしら?」


「地方の方が多いと思うけど……」


「なるほどね。」


「じゃあ、とりあえず世論調査をしてみようか。」


「世論調査?」


「王都の皆さんに王選で誰を支持したいか聞いてみるのよ。」


「なるほどね。でもどうやって?」


「まあ見てなさい。」


***


 数日後。フラエル本社前には大きな行列が出来ていた。


「アンケートに答えて、石鹸無料券をゲット!」


「是非是非このアンケートに答えて、高級石鹸を入手しましょう!」


 アウフとタクトが可愛く声を張り上げる。


 そう、世論調査の最も効率的な方法は、物で釣ることだ。献血だって、お礼のパンやらがなければ絶対にやらないだろう。


 結局人に何かをやらせるにはお礼がいるんだよ。

 

 数時間後、やっと行列がなくなった。いよいよ開票してみよう。


 アンケート結果がまとめられた用紙を見てみると(ありがとうジャニス)思った通り、アルビオンが支持率100%で独走状態だ。


「こりゃひどいわね。」


「そうね。」


 どうやら王になるには茨の道を進まないといけないようだ。


「とりあえず、がんばろうね」


「うん。」


 モチベーションが駄々下がりだが、王選に向けて、準備を続けるのだった。

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