第二章 王選編

第28話

 何気ない一日。フラエル社長室の中で俺たちはいつも通り大量の書類を読み漁りつつ、他愛のない雑談を交わしていた。


「エルナお姉ちゃんって選挙に出るの?」


「選挙?」


「うん。王様を決める選挙。」


 フランシスの話だと、王様は世襲ではなく、選挙で公平に決めるらしい。爵位関係なく選挙に出られるから、フランシスは俺がてっきり王座を狙ってると思っていたそうだ。


 別に王様になりたいかなりたくないかで言うとなりたいけど、今なりたいかって聞かれるとなー。別に今じゃなくて良い気がする。


「フランシス、この王様選挙って次回は何年後だったかしら?」


「エルナお姉ちゃんどうしたの?そんなことも忘れちゃったの?」


 やばっ、フランシスに怪しまれてる。ここはうまくはぐらかさないとな。


「いや、なんか頭痛で記憶が曖昧なのよ。」


「そうなの?大丈夫?」


「ええ、どうにかなりそうよ。で、何年後だったかしら?」


「四年後よ。」


 四年後か。尚更今回の選挙にこだわる必要は無くなったな。


「うーん、今回は良いかな。次回に期待ってことで。」


「そうなの?」


「うん」


「そっか、じゃあまた四年後だね!」


「そ『エルナ様ー!』」


 会話を遮ってアレクサンダーが部屋に乗り込んでくる。汗まみれで随分急いでる様子だけど、どうしたんだ?


「どうしたの?」


「アルビオン様が、面会にいらっしゃいました!」


「アルビオン様?フランシス、それ誰かしら?」


「お姉ちゃん知らないの?公爵家の坊で次期王様候補って言われてる超大物貴族よ!」


 アルビオン・クルーガー。公爵家の長男で、文武両道に加えて、モデルのようなルックス。稀に見る完璧な男らしいのだが、そんな完璧人間が底辺貴族の俺に何の用かな。


「そんな人が私に何の用かしら??」


「わかりません、でも一対一で話したいとおっしゃっていたので、応接室でお待ちしています。」


 おい、アレクサンダー。なんていうことをしてくれてるんだ。大貴族を待たせるなんて、下手したら逆鱗に触れて消されるぞ。


 これは今すぐ面会しないと危険だな。


「ごめんフランシス、アルビオンっていう人と一回話してくるわ。」


「いいよお姉ちゃん、私に任せといて。」


「オッケー、行ってくる!」


 俺はアレクサンダーに連れられて応接室に向かったのだった。


***


「失礼します。エルナ様をお連れしました。」


「ああ、入ってくれ。」


「はい。」


 中に入ると、そこにはいかにも好青年といった感じの男がいた。背は高く顔立ちも整っていて、まさに美男子という感じだ。だが、それだけではない。彼の放つオーラのようなものを感じるのだ。


「アルビオン様、お待ちさせてすみません」


「うむ、問題はない、とりあえず座ってくれ。」


 座ってくれって、ここ俺の応接室なんだけど。いきなり上から目線な奴だぜ。


「で、アルビオン様、何の御用でしょうか?」


「うむ。お主がエルナだな。」


「そうですけど。」


「単刀直入に言おう、我と婚約しろ。」


「「……は?」」


 今この野郎何つった?一瞬好青年じゃんなんて思っちゃったけど、ただのセクハラクソ野郎だったわ。こいつと婚約なんて死んでもしねぇよ。


「二人揃ってそう気張るのではない。我の聖剣エクスカリバーは其方を必ず快感へと誘うぞ?」


 今なんつった?聖剣エクスカリバー?快感?何誘ってるんだよ。お前のチ◯コの大きさなんて興味ねーよ。


「申し訳ないのですが、遠慮しておきます。」


「我の求婚を拒絶するか?」


「……はい。」


「待て待て、そう早まるな。」


「我は公爵家の者だぞ?次期王候補だぞ!」


「え、遠慮しときます。」


「待て待て、なら条件をつけよう!」


「条件ですか?」


「うむ。我が国王になったらお主を女王として迎え入れよう。」


「え、遠ー」


「異論は認めん。」


「は?」


「異論は認めん。話は以上だ、我は帰る。」


「えっ、ちょっ、」


「ではな。」


 そして、嵐のように男は去っていった。


 あいつ異論は認めないって、つまり嫌って言ったら殺されるってことだろ?俺に決定権はないと。


 素直に婚約を受け入れることもできるけど、もちろんいやだ。あんなナルシストで常識知らずな男、そう、男と婚約したくなどない。


 こうなったら俺にできることはたったの一つ。


「ねぇアレクサンダー、フランシスに伝えといて欲しいことがあるんだけど。」


「は、はい、なんでしょうか」


「私は、王になる!」


 そう、俺が王になってアルビオンの上に立つ。そして婚約を力ずくで破棄させる。


「ほっ、本当なんですか!?」


「いいから伝えなさい!」


「は、はい!」


 こうして俺は王になるべく動き出したのだった。

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