第30話

 王選で鍵を握る地方。俺はその地方へ偵察にやってきていた。


 王都から約数十キロ離れたいわゆる限界集落、エニグマ村。住民は僅か百二十人、そしてその内の70%以上が六十歳の老人という村だ。


「ようこそいらっしゃいました、エルナ様。」


 村長のヘンドリクスさんが出迎えてくれた。


「お久しぶりです、ヘンドリクスさん。突然の訪問にも関わらず快く受け入れてくださり感謝しています。」


 俺はそう言ってヘンドリクスさんと握手を交わす。


 俺が転生する前からヘンドリクスさんとは親交があったらしく、随分お世話になっていたそうだ。なんと言っても俺の母はエニグマ村出身でヘンドリクスさんはおじいちゃんらしい。


「さあさあ、村を案内しますぞ。ここも随分発展しましたからの。」


「そうなんですか。」


 ヘンドリクスさんの後ろをついて歩きながら辺りを見渡す。


「えぇ、エルナ様のおかげなんですよ?」


「俺ですか?特に何かをした覚えはないのですけど……」


 俺が首を傾げるとヘンドリクスさんはふっと笑いかける。いやいや、本当に覚えがないんですけど。


「エルナ様は収入の半分以上も毎度寄付してくださっているのですから。もしあなたの寄付がなければこの村はやっていけないですよ。」


 どうやら俺があれほど貧乏だったのは、毎回毎回この村にふるさと納税してたかららしい。


 逆に、俺みたいなふるさと納税していない村では更に貧しいということか。


 数十分間村を歩き回っているのだけど、この村も繁栄しているとは思えない。王都にはトイレとか、風呂とか、結構発展してたのに、この村には竪穴住居ばかりで、トイレも野糞だし。


 まあ糞はいい肥料になると言うし、サステナブルなのかな?


「ここになんか移動手段ってあるんですか?」


「残念ながらないですな。」


「つまり徒歩ですか?」


「そうですな。おかげで六十になっても足腰最強ですよ!ハハッ」


 こりゃまずいな。足腰最強なのはいいんだけど、馬車で数日かかってこの村に着いたって言うのに徒歩じゃあ何ヶ月かかるか。


 王選初日は数週間後だ。これじゃあどう足掻いても地方から大量の票を獲得するのは不可能だ。


「ヘンドリクス村長!狩りから衆が戻ってきました!」


 一人の青年がこちらに走ってきた。


「おー!今日はどんな獲物かの?」


「なんとなんと!グレートサーペントだそうです!」


「グレートサーペントか!」


 グレートサーペント?人物紹介で一度検索してみるか。えっと、『二級の魔物。即死性の毒息を撒き散らす。中隊一つ討伐推奨。』


 怖。


 というか、この村ってグレートサーペントを殺せる程の戦力があるのか?


「うちの村は戦力だけはあるんですよー。」


 ヘンドリクス曰く、この村は王都でも珍しい魔術教育を行っているらしい。エニグマ村は王国を代表するような魔術師をゴロゴロと排出しているそうだ。


 って、この世界って魔法があるのか。


「魔術師って、どんな魔法を使えるんですか?」


「え?というと?」


「いや、攻撃魔法以外使えるのかなーって」


「まあ基本的には攻撃魔法ばかりですが、日常で使う魔法とかもありますよ。」


「じゃあ転移の魔法ってありますかね?」


「転移の魔法ですか……わしも一応魔術師なんだけど、転移魔法は聞いたことないな。」


「そ、そうですか……」

 魔法があるんだったら転移魔法を使って地方の方々を一気に王都に転移しようかと思ったんだけどな。


「あっ、いや!居ましたぞ!昔々、一人だけ居ましたぞ!」


「ほ、本当ですか!」


「そ、そうぞ!確か名前はゲルシス!現魔法団団長です!」


 ゲルシス、現魔法団長か。


「できれば紹介状を書いていただけませんかね?」


「も、もちろんですぞ!」


 ヘンドリクスさんが紙を取り出して筆を走らせる。そして書き終わった後に俺に手渡した。


「では、行って参ります!」


「お気をつけて!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る