第31話
俺は王都にある魔法団本部の前にやって来ていた。理由はもちろん転移魔法の件だ。
「ゲルシス様と面会ですか。紹介状はありますかね?」
「はい。ヘンドリクスさんからの紹介状があります。」
「ヘンドリクスさんですか。存じ上げませんね。」
どうやらヘンドリクスさんの紹介状にはあまり効果がないみたいだ。衛兵さんも困った顔をしてるし、今日中に面会するのは無理かな。
諦めて帰ろうと思ったその時、ばったりアレクサンダーと鉢合わせた。
「エルナ様?一体ここで何を?」
「それはこっちのセリフよ!ここで何をしてるの?」
「買い出しですよ。フランシスさんが果実を食べたいとおっしゃったので。」
フランシス、あいつ俺の部下をパシリやがった。帰ったら物申させてもらうぞ。
「では、エルナ様はどうしてここへ?」
「ああ、ゲルシスさんと面会をしたいんだけどね。させてもらえなさそうだからちょっと困ってるのよ。」
「ゲルシスですか。なら俺が話を通しときましょうか?」
「無理よ、紹介状もないんだから。」
そもそも、紹介状もない一人の平民であるアレクサンダーがゲルシスとの面会を取りつけられる訳がないんだから。
どうせ無駄だと思いながら衛兵さんと何かを話すアレクサンダーを眺めてると、アレクサンダーが、「面会できるそうです!」と突然言い出した。
「嘘はいいから。帰るわよ。」
「いやいや本当ですって!」
衛兵さんに確認を取ると、どうやら本当みたいだ。どうやったのか、アレクサンダーはゲルシスとの面会をきっちり取りつけたみたいだ。
「アレクサンダー、どうやったの?」
俺は応接室に向かって歩きながら聞いてみた。
「ああ、俺元騎士団団長ですからある程度は顔が知られてるんですよ。あとはまあ、ゲルシスは同期なので面識があったからですかね。前にも何度か来てますし。」
アレクサンダーはてっきり騎士団所属かと思いきや、本当は魔法団所属でやがて騎士団に引き抜かれ、団長をやるという流れだったらしい。なんでも、アレクサンダーは魔法も一流だが、それ以上に剣の腕が良かったらしい。
すごいな、アレクサンダー。本当に頼もしいよ。
そんなことを考えていると、応接室に辿り着いていた。ドアを開けると、既にゲルシスと思われる人物が中でくつろいでいた。
「やあ、久しぶりだね、アレクサンダー。」
「久しぶりだな、ゲルシス。」
ゲルシスはてっきり男だと思っていたのだが、なんとびっくり、可憐な女性だったよ。緑の髪に黄色の瞳。歴戦の猛者と言わんばかりのオーラ。こりゃ大物だわ。
「ゲルシス、紹介するよ。こちらが俺の主人、エルナ様だ。」
「この子がアレクサンダーが惚れたっていう?」
「おいゲルシス!何言ってんだよ。」
「えっ?なんか悪い?前来た時も『エルナ様可愛いー!』って叫んでたじゃないの!」
「ゲルシス!貴様!」
アレクサンダーは腰の剣に手をかけ、今にもゲルシスに襲いかかりそうな気迫だ。こりゃあ大事になる前に鎮めとかないとな。
「アレクサンダー、落ち着きなさい。きっとからかってるだけだわ。」
「そ、そうですかね。」
「エルナ様ですね。私は王国魔法団団長、ゲルシス・フリーマンと申します。どうぞよろしくお願いします。」
「エルナだわ、よろしく。で、早速本題に入りたいんだけど、あなたって転移魔法を使えるかしら?」
「なぜそれを?」と言わんばかりの表情をゲルシスはこちらに向けてくる。ちょっと怖い。
「ヘンドリクスさんから聞いてゲルシスさんを訪問しようと思ったのよ。」
「あー!ヘンドリクスさんか。納得しました。そうですね、私は転移魔法を使えます。」
「なら、力を貸してもらえないかしら?」
ゲルシスの表情が急に固くなる。
「何をするために?」
「王選で勝つためよ。」
「王選に出るってことは、王様になりたいの?」
「ええ。」
ゲルシスはさらに表情を険しくさせた。地雷を踏んでしまったのだろうか?
「いいわよ。力を貸してあげても。まあテスト次第だけどね。」
「テスト?」
「そうよ、テスト。」
「何をすればいいんですか?』
「アルビオン・クルーガーやらの大貴族は、王になったら何をすると思う?」
「えっとー」
「独裁を展開して、私欲のために動くわ。」
俺が答えを言い終える前にゲルシスは種明かしをする。
「最近の貴族は政治なんてほったらかしよ。だから教えてほしいの、あなたが王になったらどんな政治を展開する?」
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