第32話

 王になったらどんな政治をするか教えろ、か。俺はアルビオンの求婚を破棄させるために王選に出馬することを決断したから、王になった後のことはあまり考えてなかった。


「私は幼少期よく思ったのよ。なんで王様は貧しいわたしたちを助けてくれないのかな、って。王様はいつも王都で遊んでるだけ、どうしてもくれない。」


「確かにそうかもしれないけれども……」


「確かに?これは事実よ。私はこのどうにもならない現状を変えたいの。私の力を借りたいなら、どんな政治を行うか教えてよ。」


 俺は前世、当選後のことを考えず選挙に出馬した。高野がいなかったら当選後何にもできなかっただろう。知事のくせに、リーダーであるくせに後先考えず色々先走ってしまう。


 そんな俺が目指す政治か。俺が王になったら、この国の住民の未来を背負うということだ。アルビオンに勝ったとしても、その後がある。


「私が目指す政治は……み、民主主義です。」


「民主主義?」


「民衆による、民衆のための政治のことよ。」


 リンカーン大統領の受け売りだけど、まあいいや。


「そんなこと、不可能に決まってますよ。」


「不可能か不可能でないかはやってみないとわからないですよ。」


「そんなこと言われても。最高の賢王ですら、民衆のための政治はことごとく失敗に終わりましたよ!」


「なんでそうなると思います?」


「なんで?」


「この国が独裁政権だからよ。」


「え?」


「この国最大の問題点は上に立つ人の圧倒的不足。」


「ど、どういうことですか?」


「我が国の権力は全て王に集まる。王以外には権力がないゆえに、王は自分で大量の仕事を抱え込むことになって、失敗するのよ。」


 この王国は俗に言う独裁政権だ。王一人が全ての物事を決定しているため、地方にまで根回しができていない。王一人がどれだけ有能だとしても、広大な王国を全て統治することは不可能だ。


 だったら、リーダーを増やせばいいんだよ。


「しかし!王を増やしたら、権力争いが止みませんよ!」


「それは『王』を増やしたらよ。」


「それは、どういう?』


「王より権力が低いリーダーをたくさん設ければいいのよ。」


「ッー!」


 今やっと気づいた。俺は転生してから何もやっていない。ただ気ままに成り行きに任せていただけの、空虚な人間だ。


 俺は周りの有能な仲間に甘えてただけだ。


「仕事の分担をきちんとやれば、そんなことは簡単なのよ。」


 二度目の人生、甘えてばっかりでいいのかな?否。二度目の人生は後悔したくない。俺は何をしたい。


 乙女ゲーの世界だからってなんだ。乙女ゲーだからって遊んでばかりじゃ居られない。


「私は王になって、全王国民を幸せにする!」


 いつか総理大臣になって、子供が永遠に笑っていける世界を作りたい。そんな大志を胸に俺は政治家になったが、いつかその大志を忘れてた。


 その大志を達成するのはきっと今だ。


「そんなことができると?」


「あなたの力があれば、ね。」


「ッー!」


「どうかな?ゲルシスさん?」


「わかったわ、私は一体何をすればいい訳?」


「あなたの転移魔法を貸してほしいの。」


「なぜ転移魔法を?」


「アルビオン・クルーガーをご存じかしら?」


「ええ。王都の支持率100%の貴族ですよね?」


「そうよ。」


「あいつは正直言って嫌いだわ。明らかに私欲のために王になろうとしてる。」


「私も別の理由でだけど嫌いだわ。まあどちらにせよ、王都の住民から票を勝ち取ることは不可能に近いと思うんだわ。」


「王都で票を集めるのはほぼ不可能と言われてますし、その通りでしょうね。」


「なら地方から票を集めようと思って、選挙日に地方住民を転移魔法を使って王都に集めたいのよ。」


「なるほど。」


「どうかしら?可能かしらね?」


「ええ。可能ですけど、相当の時間がかかりますよ。」


「でも、可能なのね?」


「ええ。一応。」


「なら結構。私に力を貸してくれるかしら?」


「あなたみたいな人は初めてです。了解しました、お手伝いしましょう。」


 ゲルシスからの協力を取り付けた俺は、次のフェーズへと取り掛かるのだった。

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