第33話
王選まで2週間。俺達はちゃくちゃくと準備を進めていた。ただ、それはもちろん他の王候補も同じで最近はよく路上演説を聞くようになった。
それでもやっぱりアルビオンは圧倒的だ。数々の王候補がどれだけ熱心に演説しようと、民衆の心は常にアルビオンの側にある。
あいつに王都の得票数で勝つのはもはや無理だな。ハハッ……圧倒的すぎて笑えてしまうよ。
まあだからこそ、俺は地方勢の支持を勝ち取らないといけない。という訳で、まず演説の原稿を書かないとな!
元々はアレクサンダーやらに書かせようかと思ってたけど、人に甘えてばっかりじゃあ俺は王にはなれない。
「とは言ってもなー」
部屋に引き籠もって二日が経っても、全く原稿の内容が思いつかない。地方に出向く用意は既にできているらしいし。あーもう、前世サボっていたのが裏目に出たぁ!
地方の支持を得るためにどんなことを話せばいいのかな。全くわからねぇ。
「どうしたのダ?困っているようだガ。」
「うわっ!」
李が背後から気配を殺して話しかけてきた。てか勝手に部屋に入ってくるな。
「おいおい、勝手に部屋に入ってくるなよ。」
「悪いナ。二日も出てこないから病んだかと思ったゾ!」
「悪かったよ。でも全然演説の原稿ができないんだよ!」
「そうなのカ?」
「そうなんだよ。何を言えば相手の心を掴めるかよくわからないんだよ。」
「ん?そんなことカ。相手は確か地方の住民だっケ?」
「そそ。何を公約として掲げればいいんだか。」
「俺は元地方民だったが、やっぱり一番嬉しいのはアクセスの発展だナ。」
「アクセスか。まあそれは当たり前なんだけど、何かネタとしては弱い気がするんだよな。」
「甘いぞ、常和ヨ。特別魅力的な公約がなくとも、熱意さえあれば十分なのだヨ。」
「熱意?」
「ああ。お前の奇策は実に面白いが、熱意が足りなイ。」
「そうなのかなぁ。」
まあ、自己流を貫いても進展はないし李のアドバイスを聞いてみるか。
俺は再び筆を握り、思いのまま原稿を埋めていく。依然不安は残るが、ええい、当たって砕けろだ!
***
「おい貴族様が演説に来てるぞ!」
「は?何の冗談だよ?」
「いや本当に来てるんだって、選挙の演説かなんかで。」
「いやいや、何の選挙だよ。」
「王選だってさ。隣町のヘンドリクスさんが言ってるからマジだぜ!」
「なんでこんな遠くにわざわざ。俺たちゃ選挙なんてできないのに。」
「だよなぁ、遠すぎるっつーの。なのに来るなんて、物好きな貴族さんやな。」
ヘンドリクスさんの紹介の元、俺たちはエニグマ村の隣にあるアラバ村へとやってきていた。早速地方の皆さんに俺の演説を聞いてもらおうという魂胆だ。
お手伝いで連れてきたのは李とアレクサンダーだけだ。フランシスには別件をお願いしている。
さあ、いい具合に住民も集まってきたし演説をそろそろ始めてみるか。
「アラバ村の皆さん!私はエルナと申す貴族です!」
声を張り上げて住民に呼びかける。するとざわめきはすぐに収まり、視線が俺に集中する。
「私には夢がある。子供、貴族、性別関係なしに互い笑い合い、幸せに生きれる世界。それを実現させるには、あまりにも権力が足りない。非力も良いところよ。」
「でも私は諦めたくない。過去に諦めた夢を今ついに現実にしたいんです!」
住民達がざわめく。これは良い反応なのだろうか……分からない。
『おいおいエルナ様よぉ!』
住民の中から野太い声が上がる。
「お前さんは良い国にするとか言うとるけど、どうやってそんなことするんだよ?俺にゃ戯言にしか聞こえないぜ。」
「まず私が公約として行うのは、地方と王都のアクセス補強と地方の活性化です。」
「アクセスの補強?つまり移動しやすくなるのか?」
「ええ、通常なら数週かかる王都まで数秒で行けるようになるわ。」
「「数秒!」」
住民が更にざわめく。
「そんなこと不可能だ!」
「ふざけんなぁ!」
「落ち着けぇ!」
アレクサンダーが住民達を黙らせる。ありがとなー。
「あなた方の疑心も理解できます。なので、実際にその移動手段とやらを持ってきました。」
「なっ……!?」
「おいおい嘘だろ……。」
村の一角に巨大な魔法陣が設置してあった。
「これは転移魔法陣です。こちらを使えば王都まで一瞬です。」
「な、なんと……」
「わ、わかった。公約は守るってことはわかったけどよ、公約以外にはどういう政治をするんだ?」
「決めてないわ。」
「「はぁ!?」」
「そうよ、私は決めてない。なぜなら、みんなで何をすべきか、するべきではないか決めていくからよ。」
「つまり?」
「王国の住民が政治の在り方を決めるのよ!」
「ッ!な、何ということだ!」
「アラバ村の皆さん、力を貸してください。私と一緒に、新時代を作りましょう!」
「「うおおおお!!!」」
歓声が沸く。やった、成功したぞ!
「ダハハッ!やるじゃないかヨ、常和ヨ。」
「いやいや、お前のおかげだよ。マジでありがとう。」
「良いってことよ、ハハッ。」
成功の達成感に浸りながらも、俺は次に為すべきことをはっきりと考えていた。いよいよ勝機が見えてきた。
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