第34話
各地の村で演説を行うと同時に、俺はフランシスに頼んだ「あること」を達成しにちょこちょこ王都と地方を行き来していた。しかしそれも今日まで。「あること」がどうやら達成間近だという報告を受けて、俺はフランシスと一緒に刑務所前を訪れていた。
「エルナお姉ちゃんったら!ほんと無茶振りばっかり!」
「ごめんって!」
「刑期を金で短くしろなんて法外よ法外!」
「知ってるけど、彼女の力が必須なのよ。」
「まあお姉ちゃんが言うなら。」
「おっと、噂をすれば……」
刑務所の重い門が開き、金髪パーマの女性がこちらに向かってくる。憎ったらしいけど、やっぱり味方だと心強いな。
「やあ、グリュネ。」
「何よ。まだ一年経ってないわよ。」
「そうだけど、どうやらあなたの力が今必要なのよ。」
「それって、つまり……」
「そうよ。」
「王選に出るってこと?」
「うん。」
「ならアルビオンとやり合う気?」
「そうよ。」
「あなたってほんと気が強いわね……」
いつも通りのグリュネでよかった。ちょっとほっとしたよ。
「で、私は何をすればいい訳?」
「アルビオンを見張っておいて欲しいの。」
「なんだ、それだけ?」
「ええ。怪しい動きを見せたらすぐに教えて欲しいわ。」
「スパイには慣れっこだからね、任せなさい!」
「頼もしいわ。」
「じゃあ早速見張ってくるわね。」
「え、でもアルビオンがどこにいるか分からないだろ?」
「フフ、言ったでしょ?私、スパイには慣れっこなの。」
そう言うと、グリュネは刑務所を瞬く間に去っていった。おいおい……大丈夫かよあのスパイ……でもまあ、腕は確かだから大丈夫……かな?
「さて、あとはあれね。」
フランシスがこちらに向き直る。
「ええ、準備は進めてきたわ……」
俺も改めて気を引き締めて、返事をした。
***
数時間後、俺とフランシスはゲルシスと面会をしに魔法団本部の一室にやってきた。前回みたいに喧嘩をしそうなので、アレクサンダーはお留守番だ。
「やあエルナさん。今日は例の品を見にきたのかな?」
「ええ。それでできたのかしら?」
「それが……」
「それが?」
「すごいのができちゃったのよ!」
「つまり?」
「成功よ!」
ゲルシスはポケットの中から小さな箱状のものを取り出し、机の上に置いた。
「何これ。」
「かなりちっちゃいけど、一体これは?」
「転移の魔道具よ!」
ゲルシスの説明によると、この箱には転移魔法が込められていて、発動させると箱の半径20メートルを転移するらしい。
しかし20メートルか。20メートル以内に村の住民が入るかが問題だな。
「これって何個あるのかしら?」
「確か、10000個くらいかな?」
「「10000個?!」」
「そうよ。」
王都外の村の数は四千村ほど。10000個の魔道具は十分すぎる在庫だ。
「あ、そういえばこの魔道具一回しか使えないけど良いかしら?」
「まあ個数あるし文句はないわ。」
「よかった。じゃあ試しに何個かもらってくわね」
アラバ村で行った演説では魔法陣をわざわざ書いてもらったが、毎回各村に魔法陣を描くことはできない。だからもっと小型化された、ポータブルな転移魔法具の依頼をしていたんだ。
「了解したわ。三つで良いかしら?」
「ええ。十分だわ。」
「あと何かあったかしら?」
「いいえ、特に。」
「ならよかった。」
「じゃあ私たちは次の仕事があるのでお暇させて頂くよ。」
「ええ、分かったわ。応援してるからがんばってね。」
「ありがとう、ゲルシス。」
「ええ、任せなさい。」
俺はゲルシスと握手を交わし、帰路についた。
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