第12話
部下が決まった今、残った課題は製品の製造と、店の宣伝だな。製品がまだ大量生産できていないのが一番の痛手だ。さっさと作ってさっさと売りたいんだけどなー。
店舗はフランシスが確保してくれると言っていたから解決したし、本当に後は売るだけなんだよね。あと広報。フラエルはあくまでも無名の会社。どうにかして知名度を上げないと客は来ないし、そりゃあ金も入らない。
フラエルの話が始まってから二日未満なのによくここまで進めたと自分を褒め称えたい所だが、まだまだ稼働までは至らない。このもどかしさを一瞬でも早く払拭したい。
「ねぇフランシス、店の場所ってもう確保できた?」
「ええ、今日話はついたわ。」
今更思うんだが、一日で店の場所を確保できるフランシスって相当優秀なんだよな。あんな末っ子属性のくせになぜか裏社会のドン感を感じてしまう。できるだけ歯向かわないようにしないとな。
「じゃあ、早速だけど、宣伝しに行こうか。」
「宣伝?」
「そうよ。今石鹸の在庫ってどれくらいあるのかしら?」
「多分50個前後かな?今売り出すには絶対足りないわよ?」
「じゃあ、その50個の石鹸を半分に切ってくれないかしら?」
「半分の大きさって、売り物にならないわよ?」
「いいのいいの。騙されたと思ってやって頂戴。」
「しょうがないわね。使用人に言っとくわ。」
こちらでちゃんと形も整えられた、商品となる石鹸の在庫は50個前後。石鹸一つの大きさがワイヤレスイヤフォンくらいなのに、それを半分に切るとなるとほとんど無いも同然。商品としては売れないに決まっている。
ならなぜ半分にするかって?それは、売り物じゃ無いからだよ。半分に切った石鹸はいわゆるテスター、一度きりのお試し石鹸だ。これを広告と一緒に配って、知名度を一気に上げようということさ。
しかもだ、客は数量限定といった言葉に目が無い。瞬く間に客は集まり、噂は広がるだろうし、これなら知名度は爆発的に上がるだろう。
完璧な広報プラン。そしてこのプランを実行してくれる広報の天才、ベリンガム兄妹。これなら失敗する未来が全く見えない。
「フランシス、あと広告を100枚印刷してもらえないかしら?」
「広告を100枚?」
「ええ。それで石鹸を包むのよ。」
「あー!なるほどね!分かったわ、アレクサンダーが作ってくれた広告を印刷しとくわ。」
ん?アレクサンダーの広告?いつの間にそんな物アレクサンダーが作っていたんだ?
「ちょっと、アレクサンダーが作った広告って何?」
「あ、言ってなかったわね。アレクサンダーは私たちが部下集めとかしてた裏で広告を作っていたのよ。」
俺の後ろに控えていたアレクサンダーが褒めてよと言わんばかりのドヤ顔を作る。まあ確かに今朝からなんか静かだったし、何か裏でやってるなというのは分かってたんだよな。
「アレクサンダー、ありがとね。」
「いえいえ、エルナ様からお褒めを受けられて幸せです……」
ハアハアと息を荒げながらアレクサンダーは返事をする。俺に抱きつきたい気持ちを必死に理性で押さえつけているという感じだ。
「う、うん。よかったね……」
「本当にそうですよね!」
とりあえずアレクサンダーは無視するとして、俺はアウフとタクトと宣伝の原稿を考えるとするか。要するに呼び子の役割を果たしてもらおうという訳だ。
「じゃあフランシス、用意ができたら店まで来て頂戴。今日で知名度を爆発的に上げるわよ。」
「奇抜な計画だけど、分かったわ。任せなさい!」
という訳で俺はアレクサンダーとベリンガム兄妹を連れてフランシスが取ったという店へと向かう。数十分歩いてたどり着いた店は、きちんと要望通り王都南部の、人通りの多い商店街の一角の大きな場所だった。
流石フランシスとしか言えない。これほど上等な場所を1日未満で取り押さえるなんて至難の業だろうに。
「すごく広いですね。」
「ええ、そうね。」
「お兄ちゃん!ここすごいね!」
「ああ、すごいな。」
「はいはい、感嘆する時間はもう終わりね。早速用意を始めるわよ。」
まずやらないといけないのは拠点の設営だな。店の中は整備も何もされてないから使えない以上、店の前に仮の拠点を作るしかない。だからとりあえず机をいくつか繋いで、臨時の屋台を組み立てる。
とりあえず拠点を組み立て終わったら、アレクサンダーが用意した昼食を口にしながらベリンガム兄妹と宣伝の作戦を話し合う。
「今日のポイントは、ギャップよ。」
「「ギャップ?」」
「アウフは可愛く、タクトは格好良く。その格差で客を引き寄せるってこと!」
「な、なるほど。」
ギャップ萌え戦法について二人に力説していると、気づいたらフランシスが石鹸が大量に入った樽をテーブルまで運んで来ていた。しかも、きちんと広告も印刷されている。流石超人フランシス。
「エルナ姉ちゃん、準備できたよ?」
「分かったわ、ありがとうフランシス。アウフ、タクト準備はいいかしら?」
「「はい!」」
準備は整った。少しだけ緊張しつつも、俺はアウフとタクトを信じる。ついに、フラエル知名度倍増作戦は幕を上げた……
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