第13話

「さあ、寄ってみて!新しい石鹸の発売だよ!」


「数量限定!石鹸の無料配布もやってますよ!」


 アウフとタクトの声が商店街によく響く。早速数人が興味を持ったみたいだな。「無料」と「期間限定」の二つの言葉を使えば多少の注目は集められる。


 ここから後何人の興味を集められるかが肝だ。ここからはアウフとタクトの力量を信じるしかない。頼むぞ!


「『まあ無料の石鹸ってどうせ低品質だろ?』って思ってるあなた!」


「実は、私たちの石鹸は安価かつ高品質なんですよ!」


「『いやいや信じられないよ!」と思ってるだろうので、今ここで俺たちの石鹸が高品質だと証明しましょう!」


 上手いな。アウフとタクトが漫才のような心地良いテンポで宣伝を続けていく。二人の宣伝が功を成したのか、石鹸の広告に惹かれる人たちも徐々に増えていく。


「では、ここに居る方から一名、体感してもらいましょうか!」


「じゃあ、そこの格好いいお兄さん!石鹸を体験してみませんか?」


「お、俺?」

 急に指名されたイケメンの青年が驚いた様子でアウフの元へと近づく。というか、このイケメン見覚えがあるなーってアレクサンダーじゃないかい!究極の自作自演ってやつだな。


「はい!お名前は?」


「さ、サンダです!」


「サンダさん!かっこいい名前ですね!」


 なんで偽名なんだよ!こんな茶番は俺の指示じゃないし、絶対にこれは打ち合わせしてるよな。まあ、よく考えたなって褒めてやるべきなのだろう。


「こちら、私たちの石鹸です。どうでしょうか?」


「色も綺麗ですし、茶葉の香ばしい香りが気持ちいいですね。体に塗ってみてもいいですか?」


「はい!」


 いやー、アレクサンダー君は演技が下手だなー。インチキってバレバレだこりゃ。でも意外とこれが客受けしている。次々と足を止める人が増えていく。


 イケメン二人に可愛い末っ子少女。こんな夢みたいな風景なら誰でも足を止めるか。ここから客の心をどうやって鷲掴みするかだな。正直言って今のままじゃあ製品としてはちょっと弱いな。そう思っていたのだがー


「いやぁ、気持ちいいですね。」

 アレクサンダーは胸のボタンを豪快に開けて、胸筋をチラつかせながら石鹸を塗りたくる。なんていうか、ストリップやん。色気を振り撒いて周りの客を没頭させるなんて……なんていうか、チートだよな。


 今やアレクサンダーの周りには大きなギャラリーが出来ていて、次々と硬貨が投げ込まれていく。「脱げー」という声も各地から聞こえてくる。そして、それに応えるようにアレクサンダーは体をよりクネクネとうねらせていく。


「さ、サンダさんどうですか?」


「き、気持ちぃいい!」

「「「おぉおおおおお!」」」


 発狂するアレクサンダーに呼応するように観客も大声で叫ぶ。なんていうか、宣伝じゃなくなってない?単なるストリップショー的なやつというか……


 そろそろ収拾がつかなくなると危惧したのか、タクトが急いでアレクサンダーを退場させる。少しギャラリーがしょんぼりしたような気がしたのだが、気のせいだろう。


「では、このイケメンを唸らせるほどの石鹸、試したくありませんか?」


「なんと、この石鹸、数量限定で、無料配布しちゃうんです!」


「えぇー!」


 わざとらしっ。どっかの通販番組の駆け引きにしか見えないんだけど、なんでこれがウケるのだろうか。


「しかし、数量限定のため、一人あたり一つ、先着百名のみにお配り致しますが、ご了承ください。」


「お配りする際は、列を作って頂けると幸いです。」


 そう兄妹が呼びかけると同時に数百人に達していたギャラリーが一斉に動き出す。列の先頭争いがもう既に勃発している所をみると、宣伝は効果があったと解釈していいよ……な?


 次々と試作品の石鹸とチラシは無くなっていき、数分経たない内に在庫は完全に売り切れてしまった。幸いなことに石鹸が売り切れたことに怒る人はいなかったし、全体的に大成功と言えるだろうな。


 店前からフランシスの家へと帰るときも、絶えず石鹸についての噂が耳に入る。石鹸を受け取れた人の自慢話など様々な形でフラエルの知名度が上がっていることを実感する。


 これで土台は整った。俺とフランシスが協議して決めた開店日は4日後。それ以降はフランシスの財布がもたないらしい。開店日から結構な利益を算出しないと財政破綻っていう、非常にリスクの高い賭けだ。


 勝てば大金持ち、負ければ底辺。勝負の日に向けて、俺たちは着々と準備を進めるのだった……

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