第20話 簡易結界装置

「お嬢様、大丈夫でしたか?ルカ様、ありがとうございます。いらっしゃっていたのですか。」


近くのシノイを全滅させて、クロエが戻ってきた。クロエの方にはジャンマルコが行っていたようで、ジャンマルコと一緒だった。

「いやぁ、クロエちゃんすごいんだよ。俺の出番なかったなぁ。」

そう言ってジャンマルコも笑って帰ってきた。


「満足か?帰るぞ。」


そう言ってルカが、帰ろうとするので、「ちょっと待って」と引き留める。まだ何かあるのか?と言いたげに眉を吊り上げて振り向かれたが、私は特に気にしない。


「魔獣はまたやってくるんでしょう?何か、罠みたいな物をつけたらいいと思うんだけど…。」

「普通の野生動物用の罠は、魔獣にはあまり効果がない。力が強い奴が多いからな。対魔獣に対しては簡易結界装置がそれに当たるが、朝も言ったように定期確認が必要だ。いろいろと考えて見たが難しい。簡易結界装置は魔石が動力源だから、魔力が有限だ。土属性の魔石で壁を作ってもいいかもだが、本部に…なんだ?」

ルカは、私とジャンマルコがにやにや笑っているのを見て、途中で解説をやめた。


「いや、いろいろ考えてたんだな、と思って。」

ジャンマルコがからかうように言うと、ルカはふんっとそっぽを向いてしまった。


「ねぇ、ルカ。簡易結界装置を一度やってみましょうよ。しばらくは持つんでしょう?」

私は提案してみた。ルカもルフィナおばあちゃんに何かしたいという気持ちはあったんだろう。

「まぁ、いいだろう。魔術具は少ないから教えるタイミングとしては悪くない。」

そう言って、ルカは一瞬迷ったが、了承してくれた。


「簡易結界装置はこれだ。」

そう言って、ルカは緑色の光沢のある針金の束のようなものを取り出した。オビの街の露天で売っていたものと同じものだった。


「これは深緑魔石からできている。」

「ルカのツァーリと同じってこと?」

「あぁ。魔術師はツァーリを介して魔力を放出して魔術に変換するが、実は魔石自体にも石の大きさに比例した魔力と、その魔力を自力で放出する力がある。わずかだがな。」


そう言いながら、ルカはその緑の針金をおばあちゃんの畑の周りに設置し始めた。


「そして、最後に繋げてやる。これだけでもいいが、風の魔術師が魔力を流すと、より長持ちする。」


すると、畑の周囲をぐるっと一周している針金から、ぐるぐると風の流れが発生し、そのままドーム状になった。

畑に透明なボウルをひっくり返して置いた感じだ。


「これで完成だ。」


「なるほど。」

私は、ルカの話をきいて、考える。


魔石からできているという針金は、おそらく導線と電池と変換器を兼ね揃えた、すごい物質なのかな、と思う。ただ、電池としての役割は、とても薄そうだ。まだ十分だが、すでに最初の勢いはない。


ルカは「もって数分だ。」と言った。


課題は電池にありそうだ。

この場合、パワー解決策としては魔力を補充してやるか、省エネ解決策としては変換効率を上げてやるか、だが。


「これ、循環させられないのかしら。」

「循環?」

「うん。上だけに魔力を放出しているんでしょう?それを、球体にして、中央に魔力を集めるの。それで、集まった魔力をまた魔石が回収して、みたいな。やっぱり回収まではできないかしら。」

「いや…そうだな。いいかもしれない。」


ルカは、はっとしたあと、顎に手を当てて、考え込んだ。

そして、ぶつぶつと独り言を言いながら、針金をいじくりはじめた。


「どちらかというと中心というより、円周か…?線ではなくて、面でつなぐイメージ…?いや…」


ルカはそうやってひとしきり何かを試した後、「できたぞ!」と言って、満面の笑みで戻ってきた。

ルカの満面の笑みを初めて見た私とクロエは、なんとなく恐怖を感じて、ひいい、と後ずさる。ジャンマルコは「あいつの笑顔、あんなんだったか…?」と、首を傾げている。


「レティシア、お手柄だ。これは組合にも報告しよう。」


ルカはそう言って、引き続き満面の笑みで、ぐしゃぐしゃと私の頭を掻き回す。せっかくクロエにセットしてもらった髪だったが、そのクロエも、横でポカンとしている。


「じゃあ、俺は帰る。今の練習が必要だからな。」


そう言ってルカは、意気揚々と空を飛んで帰っていった。


「行ってしまわれましたね…。」

「あぁ、なんだったんだろうな。」

「ジャンマルコにわからなければ、誰にもわからないわ。」


残された私たちは、ルカが飛んでいった方向を見る。三人とも空いた口が塞がっていない。


「あれは幻だったと思おう。俺たちも帰るかい?」

「そうね。」

「あ、ちょっと待ってくれ。シノイを何匹か捕まえておこうか。さばいて食べるんだ。」

「これ、食べられるの?」

「あぁ、ちょっと肉にクセがあって硬いが、鍋にしてもいいし、干してもいい。」

「へ〜。」

「繁殖力が強くて、すぐに成長するから数も多くて、あまり食べるやつはいないんだがな。」

「繁殖力が強くて、すぐに成長するのね?」

「あぁ、そうだけど?」


私はジャンマルコの言葉を確認する。

「ねぇ、ジャンマルコ、お願いがあるの!」


私は気絶している何匹かのシノイをカナリアに連れて帰って、飼育小屋をジャンマルコに作ってもらった。


ジャンマルコと、お手伝いに来てくれたイエールの大工ヨハンさんは、「シノイを飼って何するんだ?」と言いつつも、足元の土をふかふかにするから土台はだいぶ深さがいるな、というような考察を加えながら、楽しく作ってくれた。

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