第10話 横暴な乱入者

「おい、ゴンザレス。今日は誰か見習いはいるか?」


扉が乱暴に開いたかと思うと、静かだけれど、怒りが読み取れる声と共に、青年が一人、部屋に入ってきた。

腰まで伸びた栗色の髪が歩くたびにゆらゆら揺れる。前髪は長く、後ろ髪と合わせて背中に流している。身長はゴンザレスより少し低いが、すらりとた長い手足で、歩く姿がさまになっている。扉が乱暴にあかなければ、切長の目と紫の瞳の組み合わせはとても神秘的で、素敵だと思ったに違いない。


「ルカちゃん、そんなに乱暴に入ってこないでちょうだい。見習い達がびっくりしてるわ♡」

ゴンザレスが少し驚いて、ルカと呼ばれた青年をたしなめる。


「無理だな。さっきまで組合長の説教だ。また弟子をとれとさ。」

そう言って、青年は不機嫌そうに部屋をぐるっと見渡す。


「二人か…。」


ルカと呼ばれたその青年と私は、目が合った。そして、上から下までぶしつけにじろじろと見られたうえに、腕を組みながらゆっくりとこちらに近づいてくる。机を挟んで目の前に立たれたと思ったら、とてもぶしつけな質問をされた。


「お前、俺をどう思う?」

「え?とてもぶしつけな方だと思いましたけど。」

本当のことなので、そのまま伝えると、後ろでゴンザレスが「ぶっ」と噴き出していた。ルカは、目を細めると、口の端でふっと笑った。


「いいだろう、お前は今日から俺の弟子だ。」

「えぇ?なんでですか?」

あまりの横暴さに、反射的に答えてしまったのがよくなかったのか、ゴンザレスは今度は腹を抱えて笑っている。ルカもますます口の端を吊り上げ、くっくと笑う。


「お前は師匠を探してるんだろう?俺は弟子を探している。ちょうどいいだろう。ゴンザレス、手続きを頼む。お前、名前は何だ?」

「レティシアですけど…。ちょっと失礼じゃありません?」

「レティシアか。1週間後までにイエールに来るといい。」

そう言うと、ルカはくるりと踵を返し、扉に向かって歩いていく。

「ちょっと!!いくらなんでも説明がなさすぎます!!!弟子になんてなりません!!」


ルカが本当に出ていこうとするので、説明を求めるようにゴンザレスを睨んだ。この場であの嵐のような横暴な男を止められるのはゴンザレスだけだ。ゴンザレスは視線に気づいたのか、「んんっ」と野太い咳ばらいをして、出ていこうとするルカを引き留めてくれた。


これ以上何かあるのか、という不機嫌そうな顔を隠しもせずに、ルカはゴンザレスを見つめる。

ゴンザレスは申し訳なさそうにこちらに向かってフォローをしてくれた。


「ごめんなさいね。彼はルカって言ってね、ちゃんと組合に属している魔術師よ。こーんなに無愛想だけど、実力は確かなの。レティシアさんとも魔力の相性はいいと思うわ。師匠としての人格はどうかわからないけれど…。」

「ゴンザレス、やるからにはちゃんとやる。」

人格を否定されたルカは、「はぁ」とため息をつき、眉間に皺を寄せる。

「そうね。すこーし教え方に難ありだけれど。あと、女性関係にも?」

「それは関係ないだろ。それに俺は、女が嫌いだ。」


ルカの身元はわかったが、なぜそんな強引に弟子にされなければならないのかが納得できない。それに、ゴンザレスのフォローがあまりにもフォローになっていないくて、私は呆れかえる。


「早急に弟子が欲しいなら、あちらのフラビオさんに頼んではいかが?彼は男性だし、そちらの方がよいでしょう。私はあなたとは別の、ここから一番遠くに住んでいる魔術師を探します。」


私からそう言われたルカは、今度はじろり、と切れ長の目をさらに細くし、フラビオを見た。フラビオは今日一番の「ひいいい」を発して、ルカの射貫くような視線から逃げるように机に隠れた。


「いや、だめだな。」

ルカはそんなフラビオの様子を気にも留めずにこちらをみて否定した。


「なぜ?」

「説明がめんどくさい。」

こちらの質問には一切答えないので、温厚な私もそろそろイライラしてきた。もし弟子になっても先が思いやられるというものだ。見かねたゴンザレスがまたしてもフォローしてくれる。


「説明してあげなさいよ、ルカちゃん。魔力量の問題なのよ、レティシアさん。」と説明し始めた。


どうやらフラビオの魔力は少ないらしく、ルカが得意とする魔術と絶望的に合わないようだ。

それでも基礎を学ぶには問題ないが、それ以降は伸び悩む、とのことだ。


「あぁ、フラビオさん誤解しないで。付け加えるなら、魔術師としての実力は魔力量だけで決まるものではないわ。知識も必要だし、適材適所の特有の魔術を使える魔術師もいるわ♡」


ゴンザレスは先ほどと違って、フラビオへの丁寧なフォローは忘れない。


「私なら魔力が多くて、その、ルカが得意な高出力の魔術とも相性がいいの?」

「そうだな、魔力量は…」

そう言いながらルカとゴンザレスが顔を見合わせて、二人同時にこたえた。

「「規格外だ(よ♡)」」

「規格外…?」

二人同時に言われたので、聞き間違いかと思い、反芻してしまう。


「そうよ♡正確には規格なんてないから規格外っていう表現は正しくないかもしれないけど。さっき、ツァーリを触った時に、少し杖の先が重たく感じたんじゃない?とても魔力が多いんじゃないかしら♡」

「そういう意味でもレティシアは俺を師匠にするしかないと思うが…。それに、遠くに住んでる魔術師がいいとか言っていたか?」

「ええ、そうね。」

「イエールは北の端にある。つまり、王都から北に向かって一番遠い。」

ルカが淡々と告げて、にやりとこちらをみた。私はそれを言われると、とたんにぐらぐらと心が揺れる。


「あなたが私を弟子にしたい理由はわかったわ…。私にとってもメリットがあるということもね。でも早急すぎる。私も納得して師匠を選びたいわ。」

「いいだろう。心が決まったらイエールまで来るといい。」

そういって、今度は本当に部屋を出て行ってしまった。


「ルカちゃんがあんなにアプローチするのは珍しいのよ~♡」

ルカが去ったあと、ゴンザレスはご機嫌に口笛を吹きながら教えてくれた。

「私の魔力、そんなに教えがいがあるんですね。」

「そうれもあるけどぉ~そおねぇ…それだけじゃないはずよ♡ぜひイエールに行ってあげてね♡」


そういうと、残りの諸連絡を終えて、ゴンザレスも出て行った。もっと魔力について聞きたかったが、今日はここまでのようだ。

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