第19話 魔獣退治
「それにしても、お嬢様お一人で魔獣退治だなんて、ルカ様は、いったい何を考えておいででしょう?!」
ルフィナおばあちゃんの畑に向かう途中、クロエはルカの悪口が止まらなかった。
「私は大丈夫だけど…クロエは一緒についてきてもらって大丈夫だった?」
「もちろんです。お嬢様一人で行かせるわけには行きませんし、私もルフィナおばあちゃんのために何かしたいと思っていたのですよ。」
「ありがとう。でも危険かな。ちょっと魔術を試したかったという理由もあるのだけれど。」
「おそらく、土属性のシノイだと思います。四足歩行の小型の魔獣ですが、鋭い牙を持っていて、敵を見つけると突進してきます。自分の巣を作るために土をふかふかにする魔術を使うのですが、空も飛びませんし、突進してくるだけですので、最悪、長い棒で頭を狙ってください。」
そう言ってクロエは手頃なサイズの棍棒を、私に手渡した。
「じゃあ、まずは張り込みね!」
私たちはルフィナおばあちゃんの畑につくと、しばらく横に立つ木の根元で待つ事にした。
夜もふけた頃、近くの長い草陰で、何かがごそごそ動く気配がした。私とクロエは少しうとうとしていたが、その物音で目が覚めた。
「お嬢様。」
「ええ。来たかしら。」
そう言って私とクロエは、棒を構えた。明かりは警戒されると思い、つけていない。しーんと静まりかえる暗い畑に、ごそごそという音だけが響く。
ザッという草をかき分ける音と共に、獣が畑に入ってくる気配がした。その時に持ってきたランタンの明かりをつける。
すると、その獣が眩しそうに目を背けた。
小さなイノシシほどの大きさで、口がスコップのように平べったくなっている。この口で土を掘り起こすのだそうだ。
明かりを向けられたシノイは、「ブギーーーーー!」と、一声鳴いてこっちに向かってきた。
「お嬢様、まずは私が!」
そう言ってクロエが渾身の一撃をシノイの脳天にくらわせる。さすが傭兵団一とうたわれた怪力だ。脳天に入った角度のまま、きれいな二次関数の放物線を描いて吹っ飛んだ後、数メートル先に落ちた。
「おおー。」
私はその放物線の軌跡を見ながら思わず感嘆の声を上げた。クロエにやられたシノイは起き上がってくる気配はない。もう他にいないだろうかと、辺りを見渡す。
すると、さっきより大きな物音が遠くから聞こえてくる。あれよあれよというまに、さっきの草陰から、三匹も四匹もシノイが顔を出した。
「クロエ!いっぱいいるわ!」
「シノイは数匹単位で群れをなします!気をつけてください!」
「次は私がやってみる!」
その途端、比較的大きなシノイが、「プギィー!」と鳴きながら突進してきた。
私はクロエがやったように、一直線に走ってくるシノイの頭を狙って、野球のバッドを振るようなスイングで一発お見舞いしてやった。
「どう?!」
やっただろうか?と、棒の先を見ると、少しクラクラしているものの、ぶるぶると頭をふって正気に戻ろうとしているシノイがいた。
(え!やられてない!どうしよう?力が足りなかったんだ。)
そう思いながら、私は考えを巡らせる。
そうだ、せっかくなんだから、と太もものホルダーに入れていたツァーリを取り出し、足元に用意している大きめのバケツに張った水に突っ込む。そして、水を球体にしてツァーリの先に保持させると、シノイの身体をその球体の中にすっぽりいれた。
シノイは水球の中で自重の浮力で浮いてしまい、足をジタバタしている。
「やった!シノイを捕まえたわ!!!」
私は興奮してクロエを見る。すると、残りのシノイをどんどん遠くへ飛ばしながら、「お嬢様!さすがです!」と褒めてくれた。この世界にきてから特に何もできなかった私だったが、初めて何かを達成した気がして、とても嬉しい。
「さて、この後どうしたらいいのかしら。」
私は、バタバタと中でもがいているシノイを見ながら、ツァーリを離すことも出来ず、その場で思案する。そろそろ集中力も切れそうだし、と思って周りをキョロキョロと見渡す。
「ツァーリはまだ離すなよ。」
「ひゃ!」
突然耳元で、低くてよく通る声が聞こえた。
「ルカ?!いたの?」
言われた通りにツァーリを離さずに振り返ると、眠そうなルカが腕を組みながら突っ立っていた。
「お前のせいでジャンマルコに叩き起こされた。」と、不機嫌に答えられた。きっと私たちを心配したジャンマルコが気を利かせてくれたに違いない。
「これ、どうしたらいいの?」
「そのままツァーリに集中してろ。」
そう言ってルカは私のツァーリを上から掴んだ。
そして「もっと表面が中央に引っ張られるイメージをしろ」と言われて、私はうーん、と集中する。
水球はツァーリを離れたかと思うと、ルカは私の腕ごとぶんっとツァーリを振った。すると、シノイ入りの水球がツァーリの振った方向に一直線に飛び、そのままシノイはズドン!と木の幹にぶつかって、気絶した。
「今みたいに、ツァーリから水を飛ばせるようになれ。」
そう言ってルカは私のツァーリから手を離した。
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