第46話 祭りの後と魔石実験Ⅱ

翌朝、ルカとスカーレットは朝食に降りてこなかった。二人とも「頭が痛くて起きられない」らしい。ジャンマルコは「やれやれ」といいながらスープを作って、二人の部屋へ運んでいった。


酔っ払ったルカにされた恥ずかしい行為の数々に、まだ気持ちが追いついていないので、顔を合わせないでよいのは助かった。


朝食がすんだら、パウラと一緒に祭りの後片付けをした。大方、昨日のうちには済んでいたが、こまごましたものが残っている。簡単な洗い物を済ませ、備品をきれいに拭きあげて保管場所に戻したあと、改めて孤児院へお礼を言いにいった。


「パウラ、ちょっと修行する?」

「うん!」


スカーレットもルカも寝ており、ジャンマルコとクロエは街の方の祭りの後片付けに向かっている。手伝いに行ってもいいが、そんなに人数はいらないという。暇を持て余していた私たちは、修行を再開する事にした。


パウラは、もこもことリッキーとその子分を数体作り出し、縦横無人に走らせる。一つ一つの個体が意志を持っているように動く。


「すごいわ、パウラ。どうやっているの?」

「うーん、わかんない。頭の中にいっぱい友達がいる。でもまだ話せるのはリッキーだけ。」

「パウラはリッキーと話せてたのね。」

「そうだよー。」 

「パウラはツァーリがなくてもゴーレムを作り出せるのよね。」

「うん。でも、とっても作りやすくなったよ。リッキーともいっぱい話せるようになったし、リッキーのお友達も増えたから。」

「なるほどね。」

「どうしたの?レティシア。」

「この地面は、土属性のツァーリの石からできているのではないかしら、と思ってるの。」

「そうなの?」

「そうじゃないと、土属性だけツァーリなしで魔術が安定して発動できる理由がつかない気がするわ。」

「リッキーはツァーリってこと?」

「おそらくね。」


私はパウラと会話をしながら、土属性の魔石である金剛魔石を取り出した。魔石商人メルクリウスからゲットしたものだ。


「ここに、金剛魔石があります。」

「うん、2つあるね。」

「そして、パウラ。ゴーレムじゃなくて、土団子を作ってくれないかしら。大きさはこれくらい。」

私は、これくらい、といいながらサッカーボール程度の大きさを手で表現する。


「これでいい?」

パウラは地面にツァーリの先端を刺し、サッカーボール大の土人形をむくむくと作り出した。下を見ると、地面が半球状にえぐりとられている。


「ありがとう。それを、水に入れて簡単に分離する。」


私は水球を作り出し、明らかな粘土質の微粒子と、比較的大きな鉱物由来っぽいものに、水流を作ってわけていく。

そして、一通り分け終わったところで、私は水で巨大な凸レンズを作った。


「拡大してみましょう。」


私とパウラは、お盆ほどの巨大な凸レンズを覗き込み、分離した一次鉱物を観察する。


「あ、本当だ!僕のツァーリと同じ色!」

「うん、基本的にはツァーリと同じ石みたいね。」


私は、仮説が正しいことに手応えを感じる。


「じゃあ、パウラ。次にいきましょう。土属性の魔石の特徴は何かしら?」

「えーっと。何かをくっつける時に使うね。」

「そうね。よくジャンマルコが、買い物リストを壁にはっているわね。青金魔石と金剛魔石は性質が似ていると思っていて、魔力を結合力に変える性質を持っていると思ってるの。凝縮ね。深緑魔石と真紅魔石は逆で、放出するというか、振動や移動にエネルギーを向ける、と言う感じね。」

「うーん?難しいよ?」

「大丈夫。ここからは簡単。パウラ、さっき土から取り出したツァーリのかけらだけを取り出して、魔力を流してみて。」

「さっき分けたちょっと大きめの砂の方?」

「そうよ。」

「わかった、やってみる。」


パウラはそういうと、ツァーリを出して、先端を砂の山に乗せる。すると、少し黄色味が強い砂の球体が出来上がった。


「どうすればいい?」

「もっと魔力を流して、球を小さく小さく、ぎゅーってするイメージは持てる?」

「やってみるよ。」


パウラは眉間に皺を寄せながら集中する。すると、パキッパキッと音をたてながら砂の一粒一粒が、擦れあって、再結晶化していく。あっという間に、砂は魔石のようになった。


「すごい!魔石になったよ!」

「やっぱりね!」

「じゃあ、これもできるかなぁ。」


パウラはそう言ってパキパキと魔石を大きくしていき、石のリッキーを作り出す。いつもの茶色い土人形ではなく、大理石のような光沢のある金色のリッキーが出来上がった。


「わ〜すごいわね!」

「うん、すごいね!リッキーがなんだか喜んでるよ。」

「そうなの?」


「お嬢様、パウラ様。お昼ができました。」

どうやら集中しすぎて時間が経つのを忘れていたようだ。

クロエがお昼ご飯を教えに来てくれた。


私たちはカナリアへ戻った。


「あ!ルカとスカーレットがいる。」


パウラが嬉しそうに駆け寄るが、二人は食堂の大テーブルに、突っ伏している。


「大丈夫?」

私は声をかけると、二人はうめきながら頭をあげた。


「頭が痛いですわ。」

「あと、身体もだるい。」

「まぁ、そうでしょうね…。」


「みんな、スープができたぞ。二人は食べられそうか?」

ジャンマルコは胃に優しそうなスープを作ってくれたようだ。スカーレットとルカは目の前に置かれたスープを眺めながらも、あまり食欲はわかないようだ。スプーンを手にもった段階で止まっている。


「そういえば、わたくし、どのようにして街の広場から帰ったのかしら…?」

スカーレットが、ふと思い出したようにつぶやく。

「俺が運んだよ。」

「え?ジャンマルコが?わたくしを?」

スカーレットは、そのまま真っ赤になりながら、また机に突っ伏した。机からは、消え入りそうなほどのくぐもった小さい声で「破廉恥ですわ…。」と聞こえてきた。隣にいた私にしか聞こえていないだろう。

ジャンマルコは「大丈夫か?」と、トンチンカンな心配をしている。


「そういえば、組合長からの伝言だが、大会に出ろって言ってたぞ。」

ジャンマルコが、思い出したように、全員に向かって言った。

「大会?」

「魔術大会だな。組合員が集まって、お互いの魔術を競うんだ。そういえば、そんな事を言ってたな…。」

ルカが、落ちていた頭をゆっくりと持ち上げながら、解説した。

「それに出場しろってこと?」

「あぁ、参加は任意だが、年に一度の祭りみたいなもんだから、組合員はほぼ参加する。見習い部門と正魔術師部門があるんだが、お前たちは見習い部門だな。」

「へー!楽しそうね。」

「ジャンマルコ、今年はどこでやるんだ?」

「確か、フランツだ。」

「ま、参加してもいいだろう。」


こうして、一応の師匠であるルカの許可のもと、私たちは魔術師大会にエントリーすることとなった。

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