第四章:魔術師大会
第47話 組合主催の魔術大会
フランツは王都を西に60キロほど行った先にある。
イエールからは北に約100キロほどだ。
私たちは大会前日に到着するように、馬車でフランツへ向かった。
「フランツってどんな街?」
パウラが馬車の窓に張り付きながら、誰へともなく問いかける。オビを抜け出してから、乗合馬車を無賃で点々としてきたらしく、街はオビとイエールしか知らないという。パウラの目がきらきらしていて、新しい街へわくわくしているのがわかる。
その様子を見ながら、パウラの対面に座るスカーレットが説明をする。
「フランツは、帝国との貿易の関所ですわね。それより、パウラ。馬車の中でははしゃがないように。はしたなくてよ。」
「はぁい…。ごめんなさい。」
スカーレットは、パウラが正面に座りなおしたのを確認して満足したのか、フランツの歴史的な側面の説明も続けた。
「この辺りは山を切り開いてできた街ですわ。もともと山に囲まれて、危険な魔獣も多く、手持ち無沙汰だった土地を帝国が程よく手放した形でカエサルに与えた事がきっかけでラエティス公国ができましたから。帝国との貿易の要所も山を切り崩す必要があったのですわ。」
スカーレットが連峰になっている山々を指さしながら説明する。
「スカーレットは物知りだね。」
「貴族の常識ですわ。」
褒められて照れくさいのか、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そのまま馬車に揺られていると、私たちはようやくフランツについた。
「わ~すごい!」
馬車に乗りながら中心街へ近づくにつれて普段と違う街並みが馬車の外に広がっている。建物は王都と同じような同じ石造だが、王都と比べて余白なく立ち並び、その前に所狭しと露店がならび、なおかつその露店からさらに物が溢れていてぐちゃぐちゃしている。ステンドグラスや魔石も並び、原色で目がチカチカする。どちらかというとオビの街に近いが、公国ではなじみの薄いガラス製品や鋳鉄品が多く並び、改めて帝国の要所だと感じる。
そして、街の中心部にある宿に着いた。
私たち女性陣の四人は、馬車から降りると、後ろの荷馬車に乗っているジャンマルコとルカのところへ向かい、荷下ろしを手伝う。
「貿易の街だからな。相変わらず活気付いてる。珍しいものもあるし、公国にはない農作物もあるな。そうだ、今日は帝国の料理を食べよう。」
ジャンマルコが荷物を降ろしながら、私たちに言った。
「賛成よ!ところで、ワイン樽は大丈夫だった?」
フランツに荷馬車で来た理由は、組合長から「ワインを持ってこい。」と言われたからだ。大会は大勢の魔術師が集まり、祭りのようになるということなので、ジャンマルコは「出店で出すんじゃないか?」と推測していた。
「樽は大丈夫だ。レティシアちゃんたちは自分の荷物を運んでくれ。荷物を整えたら、ワイン樽を会場に運んで、そのついでに大会のエントリーをしに行ったほうがいい。ルカについて行ってくれ。」
そう言ってジャンマルコは、荷物をどんどんおろしていく。クロエは先に宿の手続きをしているようだ。
荷物を整え終え、私たち三人はルカに連れられて会場があるという街外れの草原へ向かった。
関所と逆方向に広がる原っぱには、会場設営をしている土属性の魔術師や、出店を設営している風属性の魔術師がいっぱいいた。
どうやら青空会場のようで、草原には30センチ四方の土がタイル状に連続して浮き上がり、20m×20mほどの四角いリンクが複数出来上がっていた。
準備に忙しくしている組合魔術師員たちの中心で、なんだか見覚えのある魔術師が取り仕切っていた。
「あら?ルカちゃーん!」
大会を中心で取り仕切っていた人物は、その巨体をこちらに向け、大きく手を振ってくる。私が王都の魔術師組合本部を初めて訪れた時に、説明会をしてくれた魔術師、ゴンザレスだ。
「レティシアちゃんも久しぶりね、元気にしていたかしら?大会に出場してくれてありがとう♡ルカちゃんが毎年出ないものだから、張り合いがなかったのよ!でも今年はとっても楽しみだわー♡」
ゴンザレスは、スカーレットやパウラとも自己紹介をしながら、私たちを受付へ誘導する。
「レティシアちゃんと、スカーレットちゃん、パウラちゃんは、チームで見習い戦に出場ね。1人の師匠に対してだいたい3~4人の弟子がいるから、チーム戦になるわ。ルカちゃんは一般部門ね♡」
「ちょっと待て、ゴンザレス。俺も出るのか?」
「組合長からはそう聞いているわ?出ないつもりだったの?♡」
「当然だろ。弟子たちが依頼になるっていうから来たんであって、俺自身は別に出る必要はないだろう。」
「でも、組合長が『せっかく来るんだから出させておけ、去年の大会はぬるすぎた』っていっていたから、ルカちゃんは出ることになっているわ♡」
ゴンザレスは組合長の声真似をしながらウインクをする。
「あの、ばばあ…。」
「弟子の前でお口が悪いわよ、ルカちゃん♡じゃあ、みんなをエントリーしておくわね。トーナメント表は明日配られるから、朝一で来てね。」
そう言って、ゴンザレスは他の出場者のエントリーや会場設営の指示に、忙しく飛び回っていた。
「魔術師ってこんなにいたのね。スカーレットは出たことあるの?」
私たちは、次にワイン樽をゴンザレスに支持された出店に置くために、会場の東側へ向かった。
「昨年の大会会場はガルシア領から遠かったので参加しませんでしたわ。ですが、幼少期におじい様の試合を見たことはありましてよ。」
「大会はどんなことをするの?」
「見習いは毎年チーム戦です。内容は、対人戦だったり、宝探しだったり、魔獣の捕獲だったりと、実際の仕事に近い内容ですわ。」
「大丈夫かしら。私、猫探しと魔獣退治しかやったことないわ。」
私が心配すると、スカーレットは、周囲の見習いらしき魔術師を見渡して、ふむ、とうなずいた。
「大丈夫ですわ。」
「そうかしら…うっ!」
そんな会話をしていると、私たちの前を歩いていたルカが急に立ち止まった。私は、その背中にぶつかって変な鳴き声が出てしまった。
「げ。」
それと同時に、ルカが苦しげな声を短く吐き出していた。
「ルカ、どうしたの?急に止まるからぶつかったんだけど。」
「あぁ、すまない…。」
歯切れが悪いルカの視線の先には一人の女性魔術師がいた。その女性魔術師は、どうやら弟子を四人連れて、会場の入口からこちらに歩いてくる。
その女性が歩いてくる先に視線を向けた私も、さっきのルカと同じように「げ。」と声がでた。
「知っているのか?」
私はルカの問いかけには答えず、ルカの背中から遠ざかるようにして後ずさり、スカーレットとパウラのもとまで下がる。
「あら、ルカ様?」
ウェーブのかかった金色の長い髪と、派手な顔立ちによく似合う真っ赤な口紅が特徴的な人が、早足でカツカツとこちらに向かって歩いてくる。
小柄だが豊満な体形をしているので、歩いてくる様にも圧を感じる。
「あの人、ちょっと怖い。」
後ろを歩いていたパウラが、私のスカートのすそにさっと隠れた。
「お久しゅうございます、ルカ様。例年参加は見送られておりましたけど…今年は出場されますの?」
「ああ。」
ルカは、出会った頃のように眉間にしわを寄せて、小さく息を吐きだすように声を絞り出した。このルカは最近みなくなっていたので、少し懐かしく感じる。
「まぁ!エリーは大変嬉しく思います。組合はエリーの意志を無視して王都の仕事に就かせていますが、ルカ様のいらっしゃらない日々なんて、毎日つまらないと思っておりましたのよ?エリーはルカ様の弟子だった頃を思い出しては、ため息をつく日々だったのです。」
「そうか…。」
「ねぇルカ様?また、エリーと共に過ごしてくださるかしら?」
「いや、今は別の弟子がいるから無理だ。」
「なんですって?」
カナリアの弟子たち 佐藤純 @kuro_cco
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