第31話 魔石実験
「さて、始めようかな。」
私はひと月ほど経ったある日、メルクリウスから買った魔石を地面にずらっと並べた。火の真紅魔石、風の深緑魔石、水の青金魔石、土の金剛魔石の四種類だ。それぞれ、同じような大きさのものをメルクリウスに見繕ってもらった。
そして、温度計と、天秤だ。これはジャンマルコに準備してもらった。私は地べたにぺたんと座り込んで、綺麗に並べたそれらをうっとり眺める。
「何していますの?」
「何してるの?」
すると、スカーレットとパウラがそばに寄って来た。みんな朝食が終わり、各々好きなことをしていたところだった。
「今から、ちょっと実験をね。」
「実験?」
「まぁまぁ、見てて。ちょうど二人にも手伝って欲しいと思ってたんだ。」
そう言って、私は青金魔石を二つ取り上げて、適当な石でそれぞれの重さを測る。
「この二つの青金魔石は、同じ重さね。」
「そうだね。」
「青金魔石は、どんな魔術具があったかしら?」
「水の流れを作ったり、水の温度を下げたりする機能がありますわ。ですから、入浴の時や農業に使われますわ。」
「そう。水を動かす力と、水の温度を下げる力よ。」
わたしは、人差し指をぴんと立てて、ビシィっと言った。
「じゃあ、わかりやすい方から行くわね。水の温度を下げるってどうゆう事かしら。」
「どうゆうこと?」
パウラとスカーレットは、言っている意味がわからない、とでも言うように、ポカンと返事をする。
そこへ、弟子三人の様子に興味を持ったのか、レティシアの背後からルカが現れた。
「熱を奪う、と言うことだろう。」
「そうよ!その通り。ってルカだったの。」
私はなんだ、と思いながら、背後を振り返った。
「何をやっているんだ?」
「実験よ。一緒にしましょう、師匠。」
私は、全然まともに修行をしてくれない師匠に対して、すこし揶揄するように答える。
「いいだろう。」
ルカはパウラの隣に腰を下ろした。
「続けるわね。さっき、ルカが言ったように、温度が下がるっていうのは、熱を奪う力よ。つまり…」
私はそういうと、水の温度を測った後、一つの青金魔石を入れた。すると、青金魔石を中心に水が球体状になろうとする。水面はもこもこと中央が膨らみ、表面張力がぴんとはる。
すると、温度計のメモリがぐんぐん下がっていく。そして、ある一定の温度になるとぴたりと止まった。
そして、私は容器から魔石をコロンと転がす。すると、魔石を中心にしたゼリー状の水がポヨンとスライムみたいに転がり落ちた。さしずめ、シシガミ様のアレだ。そして、しばらくぽよぽよとした形を保っていたが、時間が経つと、バチャとした音で、また土に染み込んでいく。
「温度は下がったみたいだね。」
「これがどうかしましたの?」
「…。」
三人は、私の行動を注視する。そして私は、魔石の重さを測ってみる。
「あ、ちょっと軽くなっているね。」
「やったわ!なわとなくわかってきたわよ。」
「どうゆうことですの?」
「つまりね、熱を奪っているのは魔石で、その熱エネルギーを水が結合する力に変えているんじゃないかしら。」
「結合する力?」
「そう。水同士が引っ張りあう力ね。」
私の世界ではファンデルワールス力と言ったわ、と思う。
「そして、一定の熱を奪い終わって、魔石自身が持っている魔力も使い切ると、その結合力はなくなってしまって、形を保てなくなるんだわ。」
「なるほどな。魔力だけではなく、さしづめ熱力と言ったところか?」
「そう。そして、魔石にこの力があるのならば、その魔石で作られているツァーリにもその特性があるはずなの。」
「ツァーリはたまに交換が必要な人がいらっしゃると言いますわ。それでも一生に一度程度ですけれども。」
「そうなんだ。やっぱり大きさが変わったりして、手に馴染まなくなったり、するのかもね。」
「俺はすでに二本目だ。十年前くらいか?」
「じゃあ消耗量は魔力量に比例するのでしょうね。」
「水が冷たくなるんだったら、レティシアも冷たくできるんじゃない?」
「それよ!パウラ、その通りよ!」
私は今日の実験の本題に行き着いて興奮して来た。、
「だから、水を操るイメージではなくて、魔力を吸い取るイメージで、…」
私はツァーリの先からどんどん氷になっていくのを見つめる。
「うわぁ、すごいね!」
「これは…。」
「ほぉ…。」
「どう?氷になるのよ!」
私は、どやっとした顔で三人を見上げた。
スカーレットとルカは、魔術の常識を知っているからか、驚きが顔から滲み出ている。
「その昔、カエサルの弟子リヴィエールが氷の魔術師だったと聞いたことがありますが…。まさか…こんな簡単に…?」
「俺も水の魔術は、あまり明るくなかった。魔力効率が悪く、水という媒体がないとどうしようもないという不便な点があり、数が多い割にまともな魔術師がいないと思っていたが、魔力を出すイメージをずっとしていたから本来の力を発揮できていなかったのか?」
ルカは相当ショックだったのか、それから動かない。
「その、水がないと魔術を動かせないって言うのも、なんとかなると思うのよね。」
「ほんとか?」
「うん。でも、お腹すいたから夕飯にしましょう。」
クロエが夕飯ができたと呼びに来た。
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