第21話 魔石商人
次の日は、ルカが起きてこなかったので、ジャンマルコにうながされてカナリアの中を散策した。
カナリアは五階建てのようだ。各階に螺旋階段があり、最上階はもともと組合長の部屋で、今はルカの部屋だ。4階と3階には大小の部屋が並んでいる。たぶん、部署ごとの部屋だったのだろう。4階にクロエと私の部屋。3階にジャンマルコの部屋があるようだ。
2階は大ホールとなっていて、部屋の中心がひらけており、そこから段々状に机と椅子が並んでいる。講義や集会に使われていたのだろう。
一階は水回りのようだ。炊事場と食堂が大部分を占め、洗濯用具をまとめてある物置や、玄関ホールがある。お風呂は小さいものが外にあり、後からとってつけて増築したように見えるが、一応ある。
クロエとジャンマルコはキッチンにいた。クロエがお茶を入れる道具の説明を受けているようだ。
城では仕事が細分化され、クロエのやる事は主に私の身の回りの世話だけだったが、私の身の回りのものも部屋もコンパクトになったため、仕事が減りそうだ、と漏らしていた。
「おはよう。朝ごはんはもう食べた?」
クロエとジャンマルコが振り返る。
「はい、今ちょうど準備をしていたので、準備しますね。」
そう言ってあっという間に朝食の準備が整った。
「ジャンマルコ、ルカはまだ寝ている?」
「いや、昨日からずっと起きてるみたいだが、あぁなるとダメだ。今日はたぶん出てこない。」
「どうして?私の修業、どうしようかしら。」
「そうだよなぁ…。きりのいいところで出てくると思うが、午後また声をかけてみるよ。」
ルカは修行する気がなさそうなので、私は自主練を始めた。「やるからにはちゃんとやる」とはどの口が言っていたのだろうか。
「よし。修行とは、反復練習なり、ってね。」
私は桶に水を汲み、水球を作っては投げ、作っては投げ、水がなくなるとくみにいき、のルーティンだ。
たまにシノイの様子をみたり、クロエにお茶を入れてもらったりと、ゆったりとした時間が過ぎて行く。
すると、丘のふもとのほうで、ひょこひょこと何かが見え隠れしている。なんだろうと目を凝らすと、背丈以上の大きな荷物を背負った青年が、ふらふらとこちらに歩いてくる姿がみえた。
「わあ、こんにちわ〜。お嬢さんはどちら様ですか?」
大きな荷物を背負っているその青年は、レティシアを見ると、にこにこと手を振って近づいてきた。歓迎会のおかげで、もう大半の住民たちはレティシアとクロエがカナリアに住んでいることを知っているため、少し警戒してしまう。
「こんにちは。あなたこそ、どなたかしら?」
レティシアが少し警戒して答えると、その男はますます顔を崩して笑った。肩まで程度の黒髪を短く後ろで縛っていて、笑うとぴょこん、と尻尾が跳ねる。
「あ!ごめんなさい!僕は魔石商人のメルクリウスさ。」
「魔石商人?」
「そう。イエールで魔石を買って、ほかの街で売りさばくんだよ。ここには僕の得意先が多いんだ。」
そうして二カッと歯を見せて笑う。
「ごめんなさい、レティシアよ。カナリアにはどんな用かしら?」
私は、警戒を解いて、要件を聞く。
「いつもイエールにつくと、ここによるんだよ。ジャンマルコはいるかな?いつもこの時間は洗濯をしているんだけど。」
そういって、きょろきょろとあたりを見渡す。
私はジャンマルコを呼びにいった。
ジャンマルコは、クロエと一緒に洗濯をしていた。
私とクロエの洗濯物はクロエが、ルカとジャンマルコの物はジャンマルコが洗っているそうだ。
ジャンマルコがメルクリウスを見ると、おーいと手を振ってカナリアに迎え入れた。
「よう!どんなものがある?」
「いやー今回はあんまりおもしろいものがないよ」
「こないだのフライパンはよかったぞ。オーブンにいれてグラタンにしている。」
「だろう?今帝国では、製鉄技術がいい感じで、それは鋳物だ。」
「なるほどな」
「ところで」と、メルクリウスはジャンマルコを部屋の端に連れて行き、こそこそと耳打ちする。
「ルカはどうしたんだい?カナリアに女性がいるなんて、僕、驚いちゃったよ」
「そうだろ?あっちの金髪の子がルカの弟子だ。そして、あっちの子がその侍女のクロエちゃん。」
「え?彼女、お弟子さんなの?とても美しい女性だから、僕てっきり…。」
「結婚したと思ったのか?みんな勘違いをするな」
ジャンマルコはくっくと笑いながらレティシアを見る。まぁ、あの容姿だから、ルカと同じように苦労したんだろうな、と勝手に想像する。
「ところで、今日もカナリアに泊まるのか?」
「あ?あぁ、一泊させてくれたら嬉しい。」
「女性が二人もいるんだから、気をつけてくれよ?」
「あぁ…もちろんさ。」
そう言いながらも、メルクリウスの視線はレティシアから離れない。本当に聞いているか?と確認したほうがいいだろうか。
メルクリウスはしばらくレティシアを見つめていたが、「僕、彼女にも何かいらないか聞いてくるよ」と言って歩いていった
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