第40話 保護者一行(クロエ視点)
――――時は数時間前に遡る。
「とうとう初依頼だな、ちゃんと行けるかな?」
「はい。まずはマリア様のもとにいくとおっしゃていました。」
三人を見送り、私たちは食堂を片付けようとする。
ジャンマルコ様は、はじめこそ「俺の仕事だ」といって雑用をやらせていただけませんでしたが、今ではご一緒に皆さんの身の回りの世話をするようになりました。ジャンマルコ様の仕事は、王城で働いていた私からみても丁寧で、特に料理の腕は王城の料理長をもしのぐと思うほどです。
「よし、追いかけるぞ。」
「え?」
私とジャンマルコ様は、ルカ様のその発言にきょとんとしてしまう。
追いかける?ルカ様が?ルフィナおばあさまの時は、勝手に行けといって、冷たくあしらわれてしまったが、どういった心境の変化なんだろう。
ルカ様は、食堂で残りの食器を片付け始めた。
「同行しないとおっしゃっていませんでしたか?」
クロエは、あわててルカを手伝いながらも、まだ口はぽかんとしている。
「同行はしない。後ろから見るだけだ。」
「心配なのですか?」
「いや、嫌な予感がする。」
ルカ様は「はぁ」と言って遠くを見る。
確かにスカーレット様とパウラ様がいらっしゃってから特に、修行仲間が増えて嬉しくなってらっしゃるのか、皆様の魔術が日に日に派手になっていきます。先日はカナリアの前を焼け野原にしていました。
私は、ルカ様の監督不行き届きのせいでは、と思っていますが、ルカ様はどうやら弟子たちの特性かとお思いです。
類は友を呼ぶ、というお言葉を知らないのでしょうか。
ジャンマルコ様は、ルカ様の見えないところで笑いをこらえ、目に涙が浮かんでいます。
「それ、俺たちも行くのか?」
ジャンマルコ様は真顔になり、涙をぬぐって言います。
「暇だろ?」
正直、洗濯もご飯の準備もあったが、初依頼をこなされるお嬢様をこっそり後ろから除きたい衝動には抗えない。
「行きます。」クロエはうなづいた。
ルカ様はツァーリを取り出し、足元にグルグルと竜巻をつくり、ふわっとクロエとジャンマルコが浮き上がった。
人を運べるほどの風力は、ルカ様か組合長様しかできない、とジャンマルコ様に伺ったことがあります。
魔術師でもない私が、こんな貴重な体験をしていいのでしょうか。少しワクワクします。
「堂々と見守る宣言しておけばスカーレットちゃんからへっぽこ師匠扱いされなかったんじゃないか?」
「こんな依頼に師匠がついていってどうする。過保護だろう。」
「こっそり後をつけるのも過保護だと思うぞ…。」
ジャンマルコ様が、つっこみどころ満載のルカ様のセリフにつっこんでくれます。
「まずはどこに行くんだ?」
「ジャンマルコ、猫の居場所を知っているか?」
「そうだなぁ…最近、晴れた日は街中のあったかいところにいるが、雨の日は教会だな。」
「街中を通って教会に向かおう。」
そういってルカ様は、私たちを浮かせて空を飛んだ。
「お、三人ともマリアンヌを見つけてるぞ。」
私たちは教会の上空に到着しました。ぽつぽつと雨が降って来たため、ルカ様が風で防いでくれています。
どうやら教会の裏手にある荷車の上にいる猫が、マリアンヌのようです。
「あっ!捕まえたようです。」
パウラ様のゴーレムが、マリアンヌを囲んで捕まえました。
あとは、マリアンヌをマリア様のところへ連れて行くだけです。ルカ様が心配するような事は起きなさそうです。
「ん?何かしようとしているぞ。」
ジャンマルコ様が、三人の様子を不審に思われました。
確かに、何かに気づき、教会の方へ向かっています。
「上から見るとわからないな。」
そう言いながら、私たちはしばらく上空で様子を見守っていました。すると、教会の屋根から火柱が立ちます。
「スカーレット…。」
ルカ様は眉間に皺を寄せて「はぁ」とため息をつきました。
「どうしたんだ?スカーレットちゃんは?」
「誰かがスカーレットを怒らせたんだろう。」
「教会には普段、シスターと子供達しかいないはずだけどな。」
「たまにオビから別の司祭がくる。」
「あー。お前が怒らせた、あの小心者の司祭か。って事はお前のせいじゃないか?」
「勝手に人のせいにするな。」
そんな会話をしているうちに、教会からぞろぞろと人が出て来ました。どうやら、パウラ様のゴーレムが気絶している小太りの男を運んでいるようです。そして、みるみるうちに男性が土に埋まりました。
「人を埋めているように見えますが。」
「おお、まさしくあれが、ルカが怒らせた司祭だな。こっちに来ていたんだ。それにしても、埋めたのか…。」
ジャンマルコ様は唖然としています。
司祭様を埋め終わった三人は、それぞれに散っていきました。マリアンヌを抱えているパウラ様は、マリア様の方角へ行こうとしています。
「カナリアに戻った方がよろしいのでは?」
「あぁ、そうだな。」
そう言ってルカ様はカナリアへ戻ろうとします。
「それにしても、あいつらは何かを破壊しないと気が済まないのか?」
「お前、昔、組合長の部屋を破壊したのを忘れたのか?」
ルカ様の独り言に対して、すかさずジャンマルコ様が突っ込みます。やはり、類は友を呼ぶ、という事でしょう。
お嬢様もこちらに来てから非常に開放的になっています。
みるみるうちに魔術を習得し、自信をつけていくお嬢様を見ていて、私は安心しました。
私はお嬢様の幸せを望むまでです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます