第38話 パウラの依頼完了報告

(ぼく、ひとりになっちゃった。ちゃんとマリアさんのところまで行けるかな。)


パウラは、リッキーに預けていたマリアンヌを抱えて歩き始めた。イエールの街は買い物で何回かきたことがあるが、いつもジャンマルコかクロエが一緒だった。スリをするために一生懸命覚えたオビの街より小さいが、パウラはまだ街をよく知らない。


「マリアンヌ、マリアさんのところへ帰ろう。」

「にゃー」

「うん、眠たかったよね。起こしてごめんね。」


あくびをしながら返事をするマリアンヌに話しかけながら、来た道を戻る。


ゲイリー司祭を前にしてガタガタと震えていた足が、今は全然平気だ。レティシアとスカーレットが前に立ってくれるだけで、なんだかとっても安心した。


ゲイリー司祭は、2年前にオビの孤児院に常駐するようになった。その時から、他の司祭様の目を盗み、ぼくたちに暴力を振るうようになった。最初はしつけと言って殴っていたが、段々と些細なことで殴るようになった。その時から食事が少なくなったり、回数が減ったりした。面倒を見てくれていたシスターは、まだ自分で食べられない幼子の食事を優先し、残りを他の子供達で分けることになった。孤児院の中では当然のように食事の争奪戦が始まり、当時年少だったパウラは、争奪戦に負けた時は仕方なく盗みを働くようになった。


「リッキー、ぼくオビの孤児院のみんなを助けてあげられるかな。」


リッキーはこくこく、と頷いた。


パウラは孤児院でも口数が少なく、友達といえる友達もいなかった。だからリッキーがうまく作れなくなった時は、とても不安になって必死にできる事を探した。レティシアが魔術師に弟子入りするという話を聞いた時、レティシアについて行こうと決めた。


パウラに魔術師についての知識はほとんどなかった。

教会では司祭様達は魔術師を嫌っていたし、物心ついた時から教会にいたパウラに、教会以外の世界の情報は入ってこなかった。ただ、孤児院には魔術を使える子供が一人いた。ある日突然、井戸から水を汲んでいると、水が浮かんだのだ。周囲の大人たちは騒がしくなった。


「パウラ、そいつはみんなから隠しておけ。もし手紙が来たら、燃やすんだ。」


パウラがリッキーを作り出すのをたまたま見たその少年は、そパウラに言い残して、いなくなった。


だから、周囲はパウラが魔術を使えるとは知らなかった。


(そういえば、あのお兄ちゃんはぼくみたいに師匠のもとで修行をして、手に職をつけて働けてるのかもしれない)


パウラは、今でこそそう思って納得したが、当時は孤児院を出されることはとても怖い事だと思っていた。


(そうだ。リッキーが治ればいいと思ってたけど、ぼくも頑張って一人前になって、オビの孤児院の子たちの何か助けになれたらいいな。)


パウラは、「矜持を持ちなさい」と一喝されたスカーレットの言葉に、とてもあたたかい気持ちになったが、その気持ちをまだ言葉に表せるほどの語彙力を持ち合わせていなかった。けれど、1日前のパウラにはなかった目標ができたことに、パウラ自身がとてもわくわくした。


「マリアンヌ、ぼくたち、君を見つけることが初めての依頼だったんだ。さぁ、着いたよ。」


無事に花屋に到着し、パウラはマリアにたくさん誉められた。「お礼よ」とマリアはリッキーをたくさんの花でデコレーションしてくれた。リッキーはとてもかわいく仕上がった。普段誰かに感謝される事のなかったパウラは、なんだかとってもいい日だな、と思ってカナリアに帰った。

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