「最強の宿主」
血の匂いが漂う崖の下。迦楼羅がいた。鳥籠の首領。仮面をつけているので表情は理解できないがその目は確実に俺を捉えている。
「随分とお若い戦闘員の方ですね。出来れば若者の命を摘むような真似はしたくないのですが」
そういい迦楼羅が杖から刀身を見せた。その瞬間、俺の全身に悪寒が走った。凄まじい殺気を感じたからだ。
今まで戦ってきた連中とは格が違う。それが肌で感じとれた。
「ここにいるという事は相応の覚悟があっての事。ならば!」
迦楼羅が漆黒の両翼を広げて、無数の羽根を飛ばしてきた。羽根の先端は針のように鋭く、殺傷力の高さが見て取れた。
「早いな」
飛来する数百の黒い羽根を的確に弾きながら、距離を詰めていく。
「ふん!」
刀身を振りかざすと、迦楼羅も負けずと応戦してきた。流石は鳥籠の首領。剣の重さから他の宿主とは強さの次元が違うと理解できる。だけど俺は死ぬわけにはいかない。
「これならどうですか」
迦楼羅が地面に剣を指すと突然、地面から黒い氷柱のようなものがいくつも生えてきた。
俺は一つ、また一つ適確にかわしていく。その間も機関銃のように羽根の猛攻は止まらない。この攻撃の嵐が続けば、さすがに勝機は薄れてしまう。
「影ノ雷!」
俺が唱えた瞬間、刀身が黒い電気に包まれた。その電気を使って、周囲の羽根や地面の氷柱を破壊した。そして、異能によって上昇した身体能力を駆使して、距離を詰める。
「はあっ!」
俺は刀身から溢れ出た黒い電気を迦楼羅の骨肉に叩き込んだ。凄まじい勢いで赤黒い血が吹き上がった。
「ぐっ!」
よほど堪えたのか。迦楼羅がその場で膝をついた。止まる事なく流血する傷口を震える手で抑えている。
攻撃を受ける際、迦楼羅が僅かに刀身をV因子で固めて、防御力を高めたのが見えた。しかし、次の一撃で仕留める。
「ふん!」
首をはねようとしたとき、迦楼羅が岸壁に斬撃を飛ばした。すると岩の壁が音を立てて、崩壊して流れてきた。そして、岩の波が俺と迦楼羅の間に砂煙と割り込んできた。砂埃が晴れた時には宿敵は姿を消していた。
「申し訳ありません。迦楼羅を取り逃がしてしまいました」
俺は司令部に迦楼羅の討伐失敗を伝えた。
「そうか。別の班に追跡を要請する。それと綾川隊長と捜索してほしい。先ほどから連絡が取れないんだ」
「了解しました」
俺は司令部の命令に従って、綾川が活動していたとされる場所に向かった。空からは大地に染み付いた血を洗い流すように雨が降ってきた。
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