「結婚」
「結婚式を開かないか?」
「結婚式?」
恵那が目を丸くして、傾げた。
「ああ。どうだ。開きたくないか?」
「うん、まあ正直。でも式上げるのってかなりお金かかるよ」
「大丈夫」
ソラシノは恵那に通帳を見せた。金額に驚いのか。彼女の大きな目がさらに見開いていた。
「パナイっすね」
「滅多に使わないからな。貯まるに貯まるんだよ」
今まであまりお金を使う機会がなかった為、派手に使うのを楽しみにしていた。
俺達は日程について、話し合って、様々な準備をした。どれくらい人を集めるのか。どんな会場が良いのか。それらを擦り合わせていった。
数日後、任務を終えた後、首長室まで報告に向かった。扉をノックすると返事が返って来たので、扉を開けた。
対策本部首長。聖堂寺輝が指を組んで肘をついていた。俺は手短に報告を済ませた。
「そういえば有給を取るそうだな。何か予定でもあるのか?」
首長が尋ねて来た。組織の長である彼が個人の事情に関心を示すとは珍しい。
「実は婚約を誓った女性と式を挙げようと思いまして」
「そうか」
輝がどこか得心したような表情を浮かべて、頷いた。
「ソラシノ。おめでとう」
普段は厳格な雰囲気を漂わせる彼がとても穏やかな声で祝いの言葉をかけてくれた。俺は笑みを浮かべながら、頭を下げた。
それから俺と恵那はたくさんの人に招待状を送った。俺と恵那が出会うきっかけを作ってくれたシライ先生や学生時代の友人や職場の人間。嬉しいことに多くの人達が式に来てくれる事が確定した。
「まさかお前と北原が結婚とはなー」
「もう俺も北原だけどね」
「それもそうか」
元々、姓がなかった俺は恵那の家に婿入りする形になった。
「どうだ? 結婚する心境は?」
「嬉しさ半分不安半分といったところかな」
「やっぱり不安はあるのか?」
「そりゃあね。籍を入れるって事は二人の人生が始まるわけだから」
「まあ、なんかありゃ相談乗るぜ」
「ありがとう」
彼は良い。ぶっきらぼうなところがあるが、不安には寄り添ってくれる。コーヒーを飲み終えると、俺たちは解散した。
結婚式当日。晴れた空の下、俺はこの上ない幸せを噛み締めていた。隣には白いドレスに身を包んだ恵那。周りには正装に身を包んだ知人や友人達がいる。
今まで来た事がなかった白い背広。正直、上手く着られているか不安はある。
目の前には小さな花嫁。
来客席には学生時代からの友人である庭島やシライ先生。その他のかつて学友達と対策本部の同僚である綾川春華や天王寺健などがいた。
「いいぞ! カマしていけ!」
「式で言う事じゃないでしょ!」
二人の掛け合いで頰が緩んだ。生まれてから祝福なんてされたことがなかった。こんなにも嬉しいものなんだな。
神父が近いの言葉を述べた後、俺達は静かに口づけを交わした。視界の端からたくさんの拍手が聞こえた。お互い親族がいないという事もあり、彼らの拍手が身に沁みる。
「ソラシノおめでとう!」
「恵那ちゃん! 誕生日おめでとう!」
「いいねえ!」
「ブラボー!」
各席から祝福の声が飛び交っテイル。友人。職場の仲間。俺を支えてくれた多くの人に祝福される。人生で忘れられない一日になった。
「それでは結婚式二次会! かんぱーい!」
結婚式を終えた後、その流れで俺達は居酒屋で打ち上げをしていた。学生時代の友達や職場の同僚が酒を介して、仲良くなっている。
「庭島さん いい筋肉して胃ますね!」
「そうですか? まあ仕事柄、動き回ることが多いので」
庭島が女性陣からたくさんのお声がかかっている。学生時代は鋭い目つきから人と距離をとられがちだった彼からは考えられない事だ。
「庭島君。モテモテだね」
「そうだな」
少し火照った顔をした恵那が俺に笑顔を向ける。この和やかな空気が永遠に続いて欲しいと切に願った。
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