「来年も一緒に」
十二月三十一日。俺は恵那の部屋で年越しそばを啜っていた。テレビでは大人数でののど自慢大会みたいな催しが放送されていた。
「やっぱり年越しって言ったらこれだよねー」
「そうなのか?」
「そうだよー」
気の抜けた顔で恵那がそばを啜った。ふと時計を見ると時刻は二十三時五十分を指していた。もうすぐ今年が終わる。彼女と温もりを共有しながら、感じ取っていた。
「今年もいろいろありましたな」
「ああ。本当に賑やかな一年だった」
今年は色々あった。来年もきっとある。それでも彼女とならなんでも楽しめるし、乗り越えられそうだ。そして、時計の針が十二時を指した。
「ハッピーニューイヤー!」
恵那が嬉しそうに両手を上げて、歓喜した。
「今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
互いに笑みを浮かべながら、俺達は頭を下げた。それから俺達はしばらくテレビを見て、布団の中に入った。
「起きたら初詣行こうよ!」
「ああ」
「そんでお雑煮食べよう! おせちも! 栗きんとん入ったやつね!」
「ああ」
照明を消した仄暗い部屋の中、彼女の元気な声が聞こえる。寝る気配が全くない。
結局、布団に入って三時間後、ようやく彼女が寝た。少し空が青くなっていた気がしたがその事実から目をそらすように目を閉じた。
次の日、恵那の鶏まがいの声で目がさめた。というより叩き起こされた。俺の五感全てがエマージェンシーアラートを流さんばかりの勢いだった。
「参りましょう! 初詣!」
恵那に急かされて、支度をした。玄関の扉を開けると冷えた元旦の風が俺の肩を撫でた。寒い。
神社に向かうと道中は多くの人で賑わっていた。神社の近くには屋台がいくつも並んでいる。
「見て! ソラシノ君! 屋台だよ! 屋台!」
「はいはい。後で行こうな」
子犬のように跳ね回る彼女に思わず、笑みを浮かべる。
「おうおう。相変わらずだな。お二人さん」
後ろに庭島が立っていた。
「庭島君ヤッホー!」
「庭島。君もきていたのか」
「まあ家近いからな。せっかくだし」
庭島と出くわした俺達は三人で参拝に向かった。神社の境内について、しばらくして俺達の番になった。賽銭を入れて、柏手を叩いた。心の底が願いを込めながら。
「ねえ、ソラシノ君は願い事何にした?」
「そういうのは言わないものだよ。恵那」
「えー ケチー 庭島君は!」
「今、ソラシノに言われたばっかだろ?」
「えー!」
「というかお前ら下の名前で呼ぶようになったのか」
「ま、まあね」
突然、恵那が隣でしおらしくなった。可愛い。
「せっかくだし! 私の家でパーティーでもしようよ!」
恵那が僕と庭島の手を引っ張る。庭島と顔を合わせて、笑って恵那の家に向かった。俺が神様に祈った願いはすごくシンプルだ。こうして親しい人達とたくさん楽しい時間を過ごす事だ。
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