「狂乱の南島」
洞窟の中から唸り声とともに三体の忌獣が這い出て来た。
一体は軟体動物のような忌獣。もう二体は狼のような忌獣だ。三体とも奇声を上げて、俺達を威嚇していた。
そして、その中央にいる契の死体から生まれた忌獣。他のやつより比較的大きく威圧感も感じ取れた。
「オオオオオオオオ!」
契だった奴が叫び声を上げた時、周囲にいた忌獣達が一斉に動き始めた。洞窟の中からもこちらに向かっている何かの気配を感じる。
「キュオオオオ!」
「ゲルルル!」
「ゴオオオオオ!」
目の前にいた忌獣三体が叫び声を上げて飛びかかってきた。
「ふん!」
俺は忌獣達を一体、また一体と斬り伏せた。もう一体は北谷さんが見事なヘッドショットで討伐してくれた。すると禊の死体を持った忌獣が襲いかかってきた。さっきの三体よりは動きはかなり俊敏だ。だけど一人でも問題なさそうだ。
「オオオオオオ!」
「北谷さん! 洞窟から出てくる奴を対処してください! こいつは僕が討伐します!」
「了解!」
北谷さんが洞窟側に走って行った。禊の死体を持った忌獣が追いかけようとしていたが、両足を切って動きを止めた。
「行かせるかよ」
「グルルル!」
相手が黄ばんだ歯を見せながら、鋭い爪を何度も振りかざしてきた。俺が交わすたびに後ろにあった木々がなぎ倒されていく。
「粉微塵にしてやる」
「オオオオオオ!」
俺は忌獣からの攻撃を躱して、距離を詰めた。
「影ノ雷!」
俺が唱えると刀身から黒い雷が発生した。雷を纏った刀身で忌獣を斬りつけると、奴は見事に感電した。
「オオオオオオオオオオオオ!」
これまで以上に大きな悲鳴を上げながら、予告通り粉微塵になった。忌獣の死を確認した後、北谷さんに助けに向かった。
俺が向かっている時、彼女は必死に忌獣が洞窟から出さない様子にしてくれていた。
「北谷さん!」
「さっきよりも明らかに数が多いわ!」
「グルルル!」
「ギョオオオオオオ!」
「オオオ!」
彼女の言う通り、洞窟前にいる忌獣が我先に出ようとひしめき合っていた。すると凄まじい物音が聞こえた。洞窟の上部分からだ。目を向けるとなんと忌獣がいた。
「あいつら入り口出れねえからって、洞窟の上部分に穴を開けたのか」
「まずいわね! 忌獣が市街地に出る」
解放された忌獣も大事だが、まずはこの目の前にいる連中を止めるべきだ。
「北谷さん! 下がってください! 影ノ雷!」
俺は黒い電気を刀身から放出した。忌獣達がひしめき合っているおかげか洞窟内の忌獣達を感電させる事が出来た。しかし、洞窟の上を掘って、脱走した忌獣が森に走って行った。
「数体が逃げた! 追いましょう!」
「ええ!」
俺達は逃げ出した忌獣達を追う為、森の中に入った。森の中を駆け抜ける忌獣達。
確認できるもので少なくとも十体。討伐することはさほど難しくはないが、問題は現在の状況だ。学友達に危険が及ぶのはどうしても防がねばならない。
一体。二体。三体。目に見える忌獣の首を跳ねていく。北谷さんも走りながら、次々と忌獣の頭を撃ち抜いた。しかし、残り一体が凄まじい速度で走っている。
「速すぎる!」
「まずいな」
先ほどの忌獣とは比べ物にならない速度だ。このままでは市街地に出てしまう。
「賭けるか」
俺は聖滅具の持ち方を変えて、前方を走る忌獣に投げつけた。
「ゴアアアアアアア!」
黒い雷を纏った刃は見事、忌獣の後頭部に突き刺さった。その感電して灰と化した。
「なんとかやったわね」
「ええ。洞窟の方に戻りましょう」
生き残りと洞窟内の捜査のために来た道を戻った。洞窟の奥に潜入すると
中には無数の忌獣の幼体やそれに関する実験の物があった。
そこにあったデータを調べて、忌獣の生体は俺と北谷さんが全て討伐したのが分かった。それらの写真を取り、本部に送信した。
「明日には忌獣対策本部の手が加わるでしょう」
「俺達の仕事はこれで終わりですね」
「そういえば、貴方修学旅行中よね。気の毒よね。せっかくのイベントなのに」
「まあ、仕事なら仕方ないですよ」
彼女の言うことももっともだが、今回にしては学友達を直接守ることに繋がることだ。懸命にならざる得ないと言うものだ。
「貴方は戻りなさい。私はここで忌獣対策本部が来るのを待つわ」
「分かりました」
「楽しんでね。修学旅行!」
「はい!」
俺は手を振る彼女に手を振り返した。東の空が少し、青くなっていた。
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