「クリスマス」
「脈拍、血圧、異常なし。身長。一年前より五センチ成長」
無機質な部屋の中、検査台に横たわる俺の周りで研究員達が熱心に動いていた。
一年前の俺と今の俺の状態を確認しているのだ。
「検査終了。自室に戻ってよし」
「はい」
検査台から体を起こして、自室に向かった。今からパーティーだ。急いで準備しなければならない。
「最近、彼、笑うようになったな」
「ええ。外部の学校に編入したからでしょうか?」
「他者の交流が彼を変えたのだろうか」
部屋を出る際、研究員達の話し声が聞こえた。彼らから見ても俺の変化は著しいものだったのだろう。
「いってきます」
研究員達に告げて、俺は外に出た。外に出ると冷えた空気と白い雪が降っていた。
雪が降る夜というのは実に美しいものだ。よく見ると肩を寄せ合う男女が多く見えた。恋人と聖夜を共にするという話は本当のようだ。
そんなこんなで気づけば約束の場所についていた。どうやら庭島がレンタルスペースなるものを借りてくれたらしい。
メールで送られた場所を調べながら、向かうと一つのビルに行き着いた。指定された部屋に向かい、チャイムを鳴らすと扉の奥から足音がする。
鍵が開いたので、扉を開けると火薬の匂いと空気を割る音が聞こえた。
「誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
クラッカーを鳴らしながら、庭島と北原が出迎えてくれたのだ。部屋に入るとクリスマスケーキに七面鳥。シーザーサラダにポテトフライなどそれはそれは豪勢な料理が並んでいた。
「これを二人が?」
「うん! 腕によりをかけたよ!」
「ほとんど俺だけどな」
「あっ! それ言わない約束!」
北原が声をあげて、駄々をこねている。その様子から庭島が言ったことは事実だと理解した。
「まあでもよ。こいつが腕によりをかけたのは事実だ」
「そうか。二人とも。ありがとう」
「さあ食べよう!」
北原に手を引かれて、テーブル近くに腰を下ろした。
「いただきます」
そこからは非常に楽しい時間を過ごした。美味しい料理に舌鼓を打って、クリスマス行事の一つ。プレゼント交換なるものをやった。
俺は庭島からマグカップを、庭島は北原から鶏マスク。北原は俺が用意したお気に入りの本をプレゼントした。
パーティーは大いに盛り上がり、人生でこれ以上ないほど、充実した聖夜を過ごした。
パーティーを終えて、部屋を出ると辺りに雪が積もっていた。サンタクロースのプレゼントかと思わせるような量だ。
「うお。降ってんな」
「すごい量だね!」
両手で雪をすくい上げて、飛び跳ねる北原。雪を心底、楽しんでいる彼女の姿に思わず頰が緩んだ。
雪が降る中、俺たちは会話を楽しみながら、家路を歩いていた。
「そんじゃあ。俺こっちだから。じゃあな」
「うん! おやすみ」
「おやすみ」
庭島と別れて、二人で帰り道を歩いていた。
「いやー 楽しかったね!」
「そうだな。こんな楽しい誕生日初めてだった」
クリスマス及び、誕生日というのがこんなにも良いものだったとは思わなかった。
「あっ、公園」
北原が吸い込まれるように近くの公園に入った。勢いよくブランコを漕ぐ北原。
缶コーヒー片手にベンチからその光景を見る。
公園の明かりに照らされながら、ブランコで遊ぶ彼女は心底、楽しそうだった。
しばらくすると彼女が近くに駆け寄ってきた。僕からコーヒーを取り、一杯呑んだ。
「ほげえええ! 苦い! ソラシノ君は平気なの!?」
「うん。甘すぎるの苦手だから」
「そかそか」
北原が一息ついて、上を向いた。空からは未だに雪が降り注いでいる。一つ。また一つと頰や服に溶けていく。
「いきなりなんだけどさ。ソラシノ君って。なんで告白断ったの?」
「ああ、前もよく分からなかったんだ。俺が生まれ育った環境は知っているだろ?」
忌獣を討伐するためだけに生まれた存在。それが俺だ。来る日も来る日も殺しを続ける日々を送ってきた。だから恋なんてものと遭遇する機会は俺にはない。
「うん。でも知りたいとは思わないの?」
「少しだけ」
「そっか。じゃあさ」
北原が強く、手を握ってきた。
「私じゃ駄目かな?」
北原の丸い目が俺に向けられた。心臓が今までにないくらい大きく跳ね上がった。
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