「選んだのは」

 雪が降る夜、街灯が等間隔で照らしている道をただ一人で歩いていた。胸の奥で小さく、しかし強く跳ねる心臓の鼓動を感じていた。踏みしめるごとに靴が雪の中に沈んでいく。予想外の深さに少し、驚きつつもゆっくりと歩いた。


「これで良かったのか」

 ため息が溢れて、宙に消える。判断を下した今でも分からない。それが正解だったのかも、ただ間違いなく屋上の時とは精神の状況が明らかに違っていた。


 脳が頭の中で音を立てて、思考を巡らしている。止めどなく試行を繰り返している。判断を下した時、北原は泣いていた。あの意味もよくわからない。分からない事が多すぎて、非常に疲れる。想像していた以上に体が重い。心身ともにどこか疲れているのだ。戦闘中の作戦でもこんなに悩んだ事はない。ただ、決断を下した今、後悔はない。


 これは自分にとってとても重要な選択であり、今後どうなるかも全く分からない。

 町のイルミネーションはまだ輝いていて、飾り付けられた街路樹の近くを男女達が仲睦まじく歩いている。


 なんてことなかった風景の一部である彼らが尊敬の対象すら思える。彼彼女らも様々な問題に直面し、解決して今に至るのだ。


 クリスマス。誕生日。そんなものとは無縁だった十二月二十五日。なんて事ない日々として、今年も過ぎ去るはずだった。そのはずだったが、人との出会いが祝日へと変えてしまった。


 研究所が近づくに連れて、さっきのは夢だったのではないかと思えてきた。そうでも考えていないとこの心理状況に耐えられそうになかった。


 重い溜息が口から漏れた。懐から携帯を取り出して、庭島に電話を入れた。しばらくすると彼が反応した。


「よう。どうした?」

 夏のキャンプで彼が問いかけてきた質問の意味をようやく理解した。俺の心の未熟さが今ならよく分かる。


「庭島。俺」

 生唾を一飲みして、口を開いた。


「北原と付き合う事になった」


「・・・・・・そうか」

 庭島がしばらく黙った後、優しい声を返して来た。


「ただ」


「ただ?」


「これで良かったのかなって」


「どういうことだ?」

 俺は一息ついて、少し冷えた口元を開いた。

 

「俺には恋愛というのがわかっていない。それは未経験だからなのは分かる。だからこそ告白を受け入れたのも恋という概念を理解する為に過ぎない。北原を好きなのかどうかと言われたら分からない」


「でもさ。それだったら屋上の女の子でも良かったはずだぞ。恋を理解したいなら誰でも理解できるじゃねえか」


「そうだな」


「それはきっと少なからず北原に信頼をしていたからだろ? 信頼っても愛情だと思うぜ。それが別のもんが恋愛なんじゃねえのか?」


「そうか」

 自分の中で腑に落ちた。単純な事だった。俺が北原を受け入れたのは信頼だ。人と深く関わって得られるものだ。


「まあ、頑張れよ」


「うん、ありがとう」

 俺は礼を言って、電話を終えた。雪は止んでいた。


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